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愛を知らない役者
【ファンタジー 恋愛小説】

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愛を知らない役者 (前編)-1

今日からまた、撮影に入る。

今回の役は、
"愛を知らないヴァンパイア、ダニエル"
…だそうだ。

ははっ、笑える…なんてお似合いなんだ!
"愛を知らない"、まさしくその通り。
倒錯的な世界を描くことで知られる今回の映画の監督は、どうやら、千里眼でもあるらしい。

しかし、撮影が始まると、自分はその役に入り込むタイプなので、今回のような"お似合い"の役の時は、楽ではあるが、嵌まり方も半端無くなってしまうのだ。


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映画の舞台は、そうだな、『美女と野獣』『三銃士』の頃か。
主人公は、村娘アンジェリカ、13歳。

ヴァンパイアの伝説が色濃く残るこの地域、子供達は、悪い事をすると親に脅される文句は決まって「血を吸われるよ」である。


「いいかい、アンジェリカ、早く帰らないと、ヴァンパイアに血を吸われて、石にされるよ!」

「わかってる、お母さん、端と端とは言え、同じ村の中だもの、大丈夫。
行ってきます」

「村長様とお客様に、失礼の無いようにね!」

金茶色の髪を、植物の蔓でゆるく2つに縛り、一張羅を着たアンジェリカは、差し入れ物を持って村長宅へと急ぐ。
彼女の家は村では下級の方だが、家畜の肉の味が素晴らしいと評判があるので、今日も籐カゴには葉で包んだ生肉が入っている。


「やぁ、アンジェリカ」

「こんにちは、おじさん」

「おめかしして、村長のところへ行くのかね?
また肉を持っているんだろ?
あまり血の匂いをさせて、ヴァンパイアに"永久の伴侶"にされないように気を付けるんだよ!」

人によって、ヴァンパイアの言い伝えは違う。
アンジェリカはそのことに含み笑いをしながら、
「そう、今日はお客様がいらしているんですって。
…ところで、"トワのハンリョ"ってなぁに?」

「ヴァンパイアの伝説の1つだよ。
たまに、血を吸われても死なずに、永久にそのヴァンパイアと共に、生きることになった人もいたらしいぞ。
アンジェリカは美人さんだからな、狙われないようにするんだよ」

「はぁい、ちゃんと気を付けるね、おじさん!」

「うむ、行っておいで」


若冠13歳ではあるが、十ヶ月前に初潮を迎え、女友達ともオマセな会話を始めている。
ヴァンパイア伝説にも、そろそろ眉唾を感じる年頃だ。
何が本当で、何が脚色か。

大人の世界だけではなく、現実の世界にも、見極めなければならない真実は転がっている―…


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