WAKE UP!-3
この男は彼女とつき合いながら、いろんな女の子と遊んでいた。
いや、彼女だって遊びだったに違いない。
そうでなければ、こんな言いぐさになるはずがない。
「…お前誰だ?」
「誰でも良いだろ。お前みたいな受けもできそうにないヤツをオトすことなんか簡単なんだよ。」
僕は彼に顔を近づけて口元だけ笑ってみせて、突き飛ばした。
「あっ… BlueMoonの…」
彼がよく使うバーの従業員であることにようやく気が付いたらしい。
もっとも、このナリじゃ最後まで気が付かなくてもおかしくないが。
「僕は一応有段者なんでね、手は出さない。…今はな。だけど、次も止まると思うな。キレたら僕は躊躇わずにお前を完膚無きまでに潰してやる。…エモノ持ったところで、勝てるなんざ思うなよ」
僕はありったけの悪意を込めて彼を睨め付けた。
ちょっとハッタリ。以前はともかく今はそこまで身体が動くかどうか。でも、ま、素人を相手ならなんとかなるだろ。
少々卑怯だな。と、思わなくもないが頭に血が上ったらこのアドバンテージの事はどこかに吹っ飛んでしまうだろう。
一歩踏み出すと彼が一歩下がる。
「わかったのか?」
と、いうと、彼はコクコクと何度も首をたてに振って、逃げるように去っていった。
「はあ、あほくさ。弱いモノイジメしたみてえ…」
ダメだ。ものすごく口が悪くなってる。
こういうのは習慣の問題で、悪い方ならあっという間に順応してしまう。
階段を上がって、美里さんの部屋に入る。
「圭さん…」
彼女は玄関にまだサンダルを履いたまま立っていた。
心配そうな、ばつの悪そうな顔をしている。
「大丈夫。もう来ないよ」
たぶんあいつはもう来ないと思うけど。なんだか。
「はあー」
僕は玄関でしゃがみこんでしまった。
「圭さん?」
「僕、こういうのダメ。自分のことならどうとでもするけど」
「ごめんなさい、圭さんには迷惑かけたくなくて」
「1人で対応しないで。あんな狂犬相手に。警察呼びなさい。もし、大げさにしたくないんだったら大家さんにきてもらって。僕がいない時に来たらと思うと、もう…」
僕はしばらく座り込んでいたが、自分の膝をぱん、と叩くと立ち上がった。ここでうだうだ言ってもしょうがない。
屈み込んで僕の様子をみていた美里さんは心配そうな顔のまま立ち上がって僕を見上げている。
彼女は悪くない。
僕は彼女を抱きしめた。
「ごめんね」
僕の胸の中で彼女がつぶやく。
彼女にくちづけたらやっと笑ってくれた。