投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

愛を知らない役者
【ファンタジー 恋愛小説】

愛を知らない役者の最初へ 愛を知らない役者 11 愛を知らない役者 13 愛を知らない役者の最後へ

愛を知らない役者 (中編)-7

もちろん、たった13歳の少女が村を出るからには、行く宛があってのことだ。

数年前、仲の良かった歳上の娘が、駆け落ちをした。
長らく行方を聞かなかったが、そのうち、南の港町で娼婦をやっているのを見た、と噂された。
駆け落ちの相手に捨てられたのだろう、と村人が話していた。
アンジェリカが居場所を失って、最初に思い出したのが、その娘のことだった。
昔は、ショウフ、というものが何かは分からなかったが、村中の暗い話し方で、薄々は察していた。
アンジェリカは、密かな恋をしていた歳上の娘を慕っていたので、"南の港町の娼婦"、という響きは、アンジェリカの中で特に忌まわしいものとして、刷り込まれていた。
そして、村であの娘と同じような立場に立たされてみれば、自分の行く末を彼女に重ねたのは当然のことだったろう。

いまやアンジェリカは、"南の港街の娼婦"になっていた。

もちろんここまでの道程は、13歳の少女には過酷すぎるものだった。
家族との突然の別れをなんとか済まし、評判の落ちた家畜を処分し、村長宅への謝罪をすると、たいして金は残らなかった。
そのまま着の身着で村を飛び出し、慣れない徒歩の旅。
昔、一度だけ、どこかの港町の祭りに、父親に連れて行ってもらったことがある。
村から南へ流れる、小川に沿った街道をひたすら真っ直ぐ進むと、川はそのうち本流へ流れ込む。
歩みは、川が広くなるほうへ…広くなるほうへ…。
涙は、その川で洗えば良い。

しかし、最初の満月の晩だった。
ひどい喉の渇きを覚え、目を覚まして川のほとりへ向かったアンジェリカは、月光の照らす水面鏡で、自分の牙を見た。
水を、飲んでも飲んでも、渇きが治まらない。
たまに、頭の中に誰かの影がちらつく。
漆黒の瞳―…あなたは誰?
腹がたぱたぱになるまで川の水を飲んで、ふらつきながら寝床へ戻ると、落ちるような眠りに誘われて、意識を飛ばした。
目覚めた時にはもう、自分の牙や、誰か解らぬ幻のことは忘れてしまっていた。


愛を知らない役者の最初へ 愛を知らない役者 11 愛を知らない役者 13 愛を知らない役者の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前