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愛を知らない役者
【ファンタジー 恋愛小説】

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愛を知らない役者 (中編)-8

もちろん、いくつもある町やいくつもある売春宿に、あの仲の良かった歳上の娘を見付けることはできなかった。

アンジェリカは、やっと故郷とは違う景色になった、と思えてから、金が尽きない程度に、自分の住まう宿を探しはじめた。
紹介状も持たず、仲介業者に拾われたわけでもない、何も知らぬ村娘に、その世界の常識を教え込んでくれるほどの余裕のある宿。
暗い噂に乗るようなレベルに堕ちてしまっていても、ある程度のヒトとしての品格を保てるほどの宿。

いくつかの宿では、アンジェリカの美しさをもってしてでも、断られてしまった。
いつも、遣り手婆と女将の前で、事情を話し、最後に服を脱いだ瞬間。

「なんだい、お前、それは―…!」
「うわっ、嫌だ、さっさとあたしの見世から出て行っておくれ、恐ろしい!」

「えっ、なに、なんの事ですか?
…私、分からな…きゃっ!」

「さぁ、服を持って出ておいき!
あんたのその首!
あぁ神様…!」

首筋のアザを指摘され、最低限の服だけを着ると、放り出されてしまった。
最初にそれを言われた時は、何を嫌がられたのか、わからなかった。
なにしろ、覚えている限りでは、自分にはそんなアザは無かったのだから。

慌てて隣の店の窓に首筋を映し、確認してみて驚いた。
首と肩の境をまたぐようにして並ぶ、2つの朱痕。
黒や紫のアザではなく、ほころぶ蕾のようなピンク色。
中心に向かうにつれて、鮮やかな赤へグラデーションになっている。

それぞれはたった1cm程度の2つの点だが、ヴァンパイア伝説の残る地域では、そのアザは、忌み嫌われることは知っていた。
むしろ、いつの間に自分がここまで忌まわしい存在に堕ちたのか、まったく解らなかった。
衝撃を受けて、ふらふらと町を去り、川のある街道へ再び戻った時に、彼女は突然思い出した。


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