DOLLHOUSEU 3-2
「どこへでも行きな。目障りだ。借金を抱えて怯えるなり、どこぞで野垂れ死ぬなりすればいい」
「お願いしますっ。助けてください」
男は土下座をやめない。
本当に不愉快だ。
この肝の据わらないころがこの男の使いやすい理由だった。
媚びることに必死で、日陰に追いやられてもこちらを陥れる頭はない。
だが、こうなってはここに配したことが悔やまれる。
だだひとつの。
至って簡単な『お約束』が守れないのであれば、いらない。
俺は男を引きずり、階段から落した。
転がるように下まで落ちた。
「これ以上、俺を苛立たせる前に消えろ」
階下に言い放って階段を離れた。
「ひくっ… ひっっひっ… すん」
リカはベッドの上で泣き続けていた。
ぎし。
ベッドの端に腰掛ける。
なにをするのも億劫だった。リカを解放することさえ、今更。という気がする。
ベットの上で足をひろげたまま動けないリカ。
「ユリさんっ。 ひくっ。ユリさんは? すん。」
泣きながら訊いてくる。
「蹴られて ひぃひっ… 壁に当たっ て動かなくなっちゃっ たのっのっ…頭から血がっ…でて」
とぎれとぎれにしゃくり上げながら訴える。
俺は壁際のユリそばにしゃがみ込んだ。
乱れた服装、こぼれた乳房。
投げ出した足の奥は下着を付けていない。
ナニがあったかすぐに分かる。
ユリはリカを愛していた。
リカを護ろうとしたのだろう。
確かに額を割って景気よく血が噴き出したようだ。
傷が残るかも知れないが、ヘタに内出血よりは処置が簡単な筈だ。
ココでは病気になってもおいそれと病院には運べない。
物理的な問題ではない。リカもユリももう死んだニンゲンだ。『死人』は病院にはいかない。
首筋を触り軽く持ち上げると拍動を感じる。おそらくは脳しんとう。
最悪は……。
病状がどうであれ、ロクな手当は出来やしない。
それならこのまま眠ってればいい。
俺はベッドに座り直す。