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イジメテアゲル!
【学園物 官能小説】

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イジメテアゲル!-13

「あらあら……、罪深い人もいたものね。男子が知ったら登校拒否する男子もいるかもしれませんわ」
 それは言いすぎかもしれないが、進級時のクラス分けでは、それなりに悲喜交々があったらしい。
 今年は梅雨が過ぎてもどんよりした空気が流れるだろうと予想する英助だが、既にここにも一人暗くなる者がいた。
「はぁ、アタシの由美に好きな人がいるなんて……、由美をたぶらかした奴って誰よ、あたしがぶん殴ってやるんだから」
 物騒なことを口走る千恵に薄ら寒さを覚えてしまう。彼女の由美への熱のいれようを考えれば、実際にその幸福な男子に掴みかかりかねない。
「ダメだよ、私の大切な人なんだから、乱暴なことしたら千恵ちゃんでも怒るよ」
「……由美も友情より恋愛を取るの?」
「心配しなくても大丈夫です。その人とお付き合いできたとしても、千恵ちゃんとは今までどおり、良いお友達です」
 由美は千恵の手を取ると、満面の笑顔で告げる。
「うん、そうだよね……、あたしは由美の友達だもんね。ただの友達……うん。これからも仲良くしようね、友達として……」
「うん、大切な友達です」
 友情を確かめあった二人はしばらく笑顔のまま手を握り合っていた。やがて千恵は思い出したように携帯を取り出すと、わざとらしく声を上げる。
「あ、ごめーん由美、あたし大切な用があったの忘れてた。ちょっと席外すけど、サボルわけじゃないからね」
 千恵は名残惜しそうに由美の手を握っていたが、時計とにらめっこしながら荷物そのままに出口へと向かう。
「なんだ? いったい」
 英助が茫然と千恵の後姿を見送っていると、美奈がちょんちょんとシャツを引っ張り、ひそひそ声で話しかけてくる。
「……ちょっと英助、千恵の後を追って」
「……なんでそんなこと?」
 つい調子を合わせてひそひそ声になる。
「……弱みを探る絶好のチャンスじゃない。由美は私が引き止めておくから、貴方は千恵を探るの」
 弱みという言葉に放課後の取り決めを思い出す。しばらく機会にもめぐまれなかったせいか、それともキスのイメージが強かったせいか、すっかり忘れていた。
「……気が進まないよ。やっぱり、人の弱みを探るなんて、俺には無理だよ」
 そもそも美奈と違って倫理感というものを人並みに持ち合わせている彼には、どうしても弱みを握るためにプライバシーに踏み込むという行為が納得できなかった。
「……でもさっきの千恵、どこか変だった。用事っていうけど、由美にも訳を話さないし、なんか思いつめてたっていうか、一人にしないほうが良いわ」
 確かに英助も千恵の様子が気になった。それというのも、去り際の彼女の瞳には、涙が溜まっていたように見えたから。
 半分は英助を言いくるめる為の思いつきの理由かもしれないが、美奈や由美に執り成しを求めるのは難しいと判断し、彼は頷く。
「白川、悪いんだけど、俺もちょっと部室に用があってさ、そんでちょっと行ってくる」
「ふぇ、進藤君もですか? なんか寂しいです」
 先ほどまで淡い恋心の告白に脳内お花畑を展開していた由美は、途端にしょんぼりしてしまう。
「ほんとたいした用事じゃないし、すぐ戻ってくるよ」
 寂しいと言われると胸が痛くなる。彼女もまた片思いの真っ最中で、その小さな胸の中は切なさで溢れているのだろう。人事ながら、英助は彼女を苦しめる片思いの相手が憎らしく思えた。
「……ほら、早くいかないと見失うわよ」
 美奈にせっつかれ、英助は後ろ髪を引かれながらも、図書館をあとにした。


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