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イジメテアゲル!
【学園物 官能小説】

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イジメテアゲル!-1

イジメテアゲル

 五月の連休も終り、穏やかな陽気が徐々に日差しを強める。
 朝、七時四三分の準急電車は常に満員だ。ただ、今日に限って目覚ましがストライキでも起こしたのか、普段よりスーツ姿の乗客が多く、ブレザー姿の高校生達は隅っこに追いやられている。
 ――こんなことなら一本待てば良かった。
 濃紺色のブレザーにベージュのズボン。板橋高校二年、進藤英助は唯一動かせる右手で短く切りそろえられた前髪を撫でる。
 背がひょろりと高く、肩幅が狭いせいで華奢な印象を受ける彼だが、大きい目と高身長の割りに低い鼻のせいで幼い印象をもたれる。
 若干近視の入っているせいか、遠くを見るときだけ目を細めてしまい、そのときだけは三割増男前と囁かれ、小学校から一緒の口さがない幼馴染には「コンタクトにすればもてるかもよ」とからかわれる。ただ、異物を目に挿入するのを怖がる彼は、なかなかそれが出来ずにいた。
「……ん……あ……や……て……」
 単語カードをめくる途中、電車の轟々という音に紛れ、何かが聞こえた。
 鼻にかかるくぐもった声は、ところどころキーが跳ね上がり、尋常でない様子を伝えてくる。気になって耳を澄ませると、それは「やめて」と聞こえた。
 ――まさか、痴漢?
 英助が声の方に目をやると、見慣れたクリーム色のブレザーと肩にかかるセミロングの黒髪が見えた。
 ――勘違いならそれでいい、とにかく彼女の傍に行こう。
 顔は分からないが、同じ学校の生徒という事実が彼の心に義憤の火を灯す。
「すみません、通してください」
 意を決し、混みあう電車内を強引にかき分け、睨まれ舌打ちされながらも、その子の元へと向かう。
「よいしょっと……、うん、しょっと」
 被害者の後ろに割り込み、壁に手をつき庇う格好になる。後ろでは痴漢と思しき男がつまらなそうに舌打ちするのが聞こえた。
「……大丈夫だった?」
 目の前の少女は肩を震わせていたが、それも徐々に収まり始める。
「あ、ありがとう……」
 背中を向けたまま彼女が呟くと、セミロングのふわっとした髪が揺れ、爽やかな桃の香りが立つ。
 ――いい匂い……って、これじゃあ俺が痴漢じゃないか?
 間近で感じる女子の甘酸っぱい芳香に思わず深呼吸してしまう自分を恥じ、咳払いで誤魔化す。ただ、彼女の後姿には見覚えがある。それもごく最近のこと。
「……もしかして、白河?」
 名前を呼ぶと、彼女は驚いたように振り返る。
「へ? あ、あ、えと、進藤君……ですか?」
 間延びした声とおかしなデスマス口調はクラスメートの白河由美。
 丸っこくてちょっぴり垂れ目、鼻が少し低く、愛嬌のある顔立ちの彼女。クラスメートから「お姫様」とか「お人形さん」などとからかわれては、怒ったように頬を膨らませる癒し系。同じ電車に乗っていたとは、今日まで知らなかった。
「なんだ、白河もこの電車なんだ」
「うん……」
 同じクラスといってもあまり親しいわけでもなく、たんなるクラスメートでしかない。それでも彼女が自分の名前を知っていたのを嬉しく思う。
「ふーん、そうなんだ。いつも一緒だったのに、気付かなかったんだ」
「私って目立たないですし」
「そんなことないだろ? 白河はうちのクラスのお姫様なんだからさ」
「もう! 進藤君まで酷いです!」
 そういって彼女は頬を膨らませる。薄紅色の唇がぷいっと突き出されると、変に意識してしまう気持があり、心理的なくすぐったさを覚えてしまう。
 無理に誤魔化そうとしても、唇がいやらしく歪んでしまい具合が悪い。視線を彼女から窓の外に流れる景色に移す。遠くの看板は細目で辛うじて読み取れるが、電話番号の下三桁を読む頃には幾分冷静さを取り戻せた。


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