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『冬の中のあたたかさと優しさ』
【青春 恋愛小説】

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『冬の空は厚い雲に覆われて』-3

不覚にも、僕は顔が熱くなってしまったから。多分赤くなってしまっているだろう。
寒さのせいだとごまかしてしまえればいいのだけど。
ああ、もう。おかしい。少し前までの僕はこんなじゃなかった。もっと冷めていて、落ち着いている、つまらなくなるくらい自分の気持ちがコントロールできる人間だったのに。
でもどうしてかな。今、すごくどうでもいいような欲求が抑えきれなそうになっている。
榎奈と手を繋ぎたい。ただ、それだけ。
どうかしているよな。手を繋ぐなんてだけのことをこんなにしたがっている。
でも、手を繋ぐなんてだけのことがどうしてもできない。
もし僕たちが恋人同士なら、手を繋ぐなんてこと、簡単なことなのだろうけど…。
細かい雪はビル風に乗って、不規則なステップを踏むようにゆっくりと降りてくる。
ゆらゆら、揺れる冷たい雪。ゆらゆら、揺れる僕の心。
溜め息が出る。
「本当に、寒いな…。」
今度は僕が言う。
「うん、寒いね。」
榎奈が返す。
「…本当だ。少し、暖かくなるかもしれない。」
苦笑い気味に僕が言うと、榎奈は、でしょう、と得意げに笑った。そして
「ねぇ、まだ冬は長いよね。」
と、その笑顔をそのままに言った。
「うん、長いな。」
「だからさ、私これからまた何回も『寒い』って言うと思うんだ。それでね、そのたびに……キミに、『寒いね』って、隣で言って欲しいな。」
相変わらず、その顔には冗談ぽい笑顔を浮かべている…。
でも、僕は知っている。冗談ぽい時ほど、榎奈が本気でものを言っている合図だということ。
でも、そんなことはどうでもいい気がする。素直に嬉しいんだ。
もう何も考える必要なんてないだろう?最初から決まっているんだ。僕は僕の、正直な気持ちを伝えればいい。
「榎奈。」
僕の声は、榎奈のそれとは対称的に、カラカラに乾いていた。
「言うよ。言わせて欲しい。いつも榎奈の隣で。今年の冬だけじゃない、来年も、再来年も、その先も…できれば、ずっと。」
ゆっくりと、榎奈の顔を見た。
その笑顔は、うっすらと赤く染まっていた。寒さのせい、じゃないだろう。
それがなんだか、逆に僕のほうが照れくさくなって、視線をまた前に戻した。
と、不意に、かじかんだ左手にあたたかいものが触れた。それはそのまま、柔らかく僕の手を包むように…

雪が踊る道の上を、僕たちは手を繋いでゆっくりと歩いた。繋いだ手からは、あたたかさが、優しさが、そして少し照れくさい気持ちが伝わってくる。僕も、負けずに伝えようと、少しだけ強く手を握り返す。
そんな僕らのささやかな幸せの芽を包み込むかのように、空は柔らかい雲に厚く覆われていた。


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