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『冬の中のあたたかさと優しさ』
【青春 恋愛小説】

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『冬の中のあたたかさと優しさ』-1

「さ〜むいなぁ〜…。」
雪雲に覆われた灰色の空に向かって呟く。一緒に吐き出した息が白く空中に留まって、まるでマンガの吹き出しみたいで、そこに今言った台詞が書き込まれたら面白いな、と思った。
この街の冬は本当に寒い。今日は雪は降っていないけど、相変わらず風は鋭く強く吹き続いていて、私、水森柊子は、かじかんだ手をすり合わせて、は〜っ、と息を吹きかけた。
踏み固められてカチカチになった雪でよく滑って危ないから、寒いけどポケットの中に手は入れないでおく。私はよくころぶんだ。去年の冬は4回もころんだ。ころびそうになった回数なんて数えられないくらい。
『あぶねぇな。』
ころびそうになるたび、苦笑まじりにそう言って差し出された腕の感触を、かじかんだ手が思い出す。
…ダメダメ。
私は首を小さく横に振った。
忘れるって決めたじゃない。ひさぎのこと。なのにこんな風に思い出しちゃあ…。
でも最近は、少しづつ前よりはよくなってきてる、と思う。
ひさぎのことを見かけても、一回溜め息をつくくらいで大丈夫だし、目を合わせないようにするのにも慣れてきた。この調子でいけば、きっとこの冬が明けて、この街に積もった雪が溶けきるころには、多分うまくこの気持ちがおさまってくれるんじゃないかな、なんて思ってる。
そしたら。
そしたらまた私たちは友達になれるだろうか。
去年の冬は、私の隣にいつもひさぎがいた。だって私たちは、そう、親友だったから。私がころびそうになった時にしか腕は差し出されなかった、交わす会話はなんの色気も無かった、でも、こうして一人で、転ばないように下をむいて歩いていると、あのころがひどく懐かしい。
そう思うと、あの日の告白を後悔してしまう。どうして告白なんてしてしまったんだろう。どうして友達で満足しなかったんだろう。どうして……。
私はまた首を振る。
卑怯だ。
後悔するなんて卑怯だ。『どうして』『どうして』。そう言って過去の自分をいじめてる。くりかえし問い詰めて、そのくせその『どうして』の答えには耳を塞いでる、それに自分でもその『どうして』の答えなんて本当は分かっているのに。
理不尽で、一方的過ぎる、自分勝手なこと。
それでも、気付くといつのまにか、おまじないみたいに唱えてる。
イヤなやつだな、私。
「どうして〜♪、と」
その気持ちを払拭するために、即興で作ったおどけたリズムに乗せて、マフラーの中に呟く。すると
「何が?」
不意に左上から声がかかった。びっくりして私は顔を上げた。見慣れた顔がそこにあった。
「つばき。」
私が名前を呼ぶと、そいつは笑顔をつくって「よっ」と言った。
ていうか、今の、聞かれた?恥ずかしい。
恥ずかしがる私をよそに、つばきは手に持っていたビニール袋から何かを取り出し、私の前に差し出した。「ほら、コレやる。」
いきなりのことでよくわからず、とりあえず私はそれを受け取った。
薄い紙袋に包まれたそれは、柔らかくて、あったかい…
「…にくまん?」
私が言うと、つばきはうなずいた。
「そ。あそこのコンビニでさ、さっき見つけたんだよ。新発売のが二種類も出ててさ、俺こういうの買わずにはいられないんだよね。」
つばきは無邪気な顔でそう言いながらもう一つ、袋から中華まんを取り出した。二種類のうちのもう一方だろう。
「あ、でもそれならつばきが食べたいんじゃないの?」
「いや、どんな味かなぁ?っていう好奇心で買っただけだから、それさえ教えてもらえばだれが食べてもいいんだ。だからやるよ。」と言ってニコッと笑った。そんな満面の笑みで渡されたら、断る気も無くなる。まぁ始めから無かったけど。


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