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『冬の中のあたたかさと優しさ』
【青春 恋愛小説】

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『冬はまだ長くとも…』-5

「俺、お前が好きだから。」

言うまいと、決めていたのに。
馬鹿だな、俺は。最悪の結果だ。
苦笑しか浮かばない。
それに合わせるように、ではないけど。柊子がクスッと笑った。
「私も、好きだよ。」
「は?」
…こいつ、馬鹿か。こっちは真面目に言っているのに。
「いや、だから、そういう意味じゃなくて。こう、本気で、恋愛対象として、好きだ、って言ってるんだよ。」
って、何言いなおしてるんだ、俺も。あのままごまかしてしまえばよかったのに。
なんて、後悔してる暇は無かった。
「だから、私も、そういう意味でつばきのこと好きっていうことだよ。」
と、柊子が言ったから。
え?つまり、えっと…。
その言葉の意味を俺が理解するまでに、少し時間がかかった。その隙に、柊子は可笑しそうに、いや、嬉しそうに、かな。クスクスと笑い始めた。
俺も、それにつられて、それと安心と嬉しさとで、自然に笑顔になった。
笑いながらも、柊子は目に少しの涙を浮かべていた。それは蛍光灯の白い光をきらきらとはじいて、まるで奇跡みたいに綺麗だった。
そして笑顔をもっと嬉しそうにして、言った。
「好きだよ、つばき。」
ちゃんと言っておかないとね、とつけくわえて。
たまらなく愛おしい、と思った。
「俺も、好きだ。」
柊子の笑顔は、またもっと素敵になって、またもっと俺を幸せにさせた。こいつが俺にくれる幸せに、限界なんて無いみたいだ。錯覚でも思い込みでも、今、確かにそう思う。
今の心の中をたとえるなら、それは雲ひとつ無い青空のような。まるでただ幸せの象徴のような。でもそうなると、空に浮かんでいた、目障りだとも思っていた雲も、少し恋しくなったりもした。
ひょっとしたら、「友達」をうしなうことを恐れていたのは、俺自身だったのかもしれないな。それでも、そのうしなったものと引き換えだったとしても、得たもののほうがずっとずっとたいせつに思えるはずだろう。
そんなことを考えていたら、
「ねぇ、つばき。」
いたずらっぽく、柊子が話しかけてきた。
「私、彼氏ができたんだ。」
一瞬、少し困惑した。けど、すぐに柊子の言いたいことが分かった。じゃあ、俺はこう言おうかな。
「へぇ、どんな奴?」
「優しくて、かっこよくて、あったかいよ。」
ああ、なんだ…
「そりゃあ、いい奴だな。」
うしなったものなんて…
「でしょ。」
何もないじゃないか。
ちょっと恥ずかしそうにはにかむ柊子を、ぎゅっと抱きしめてみた。実は、照れ隠しでもあったけど。
その感触は、前に抱きしめた時と同じだったし、同じじゃなかった。
「ねぇ、つばき、のど乾いた。」
腕の中で、甘えた声がする。
「コーヒーくらいしかないけど。」
俺はそれに答える。
「うんと砂糖をいれてね。」
「了解。」
とびきり甘いコーヒーをいれてやろう。


部屋の窓ガラスは白くくもっていて、外の寒さを伝えてくれる。まだもうしばらくは、冬はつづく。でも…。冬はまだ長くとも、もし春がなにかにつまづいて駆けつけるのがおくれたとしても、春よりもずっとあたたかい冬をすごして、ゆっくりと待っていられる。

そんな、気がした。


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