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『冬の中のあたたかさと優しさ』
【青春 恋愛小説】

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『冬の空は厚い雲に覆われて』-1

〜つばきside〜

マフラーに首をうずめたまま、腕時計を見る。
やっぱり早く来すぎたみたいだ。約束の時間まであと15分くらいある。
やれやれ、俺は普段には時間にルーズなはずなのに。しかも今は寒い冬、本当は一分も長く外に居たくないはずだ。それなのに俺ときたら、浮かれすぎなのかもしれないな。
別にデートって訳じゃない。ただ一緒に映画を観に行かないかと誘われただけ。それだけのことだ。それくらい中学生でもやっている。それ以上の意味は無し、だ。だって、柊子にとって俺はタダのトモダチだから。
そう、俺は友達。柊子は、俺に「友達」を求めてる。たとえ友達だとしても、俺のことを必要としてくれているというのは嬉しいけど、でもそれなら、俺が柊子のことを「友達」としてじゃなく、求めているということは、ひょっとして裏切りなんじゃないだろうか。
どちらが正しいんだろう。自分の気持ちを素直に伝えることと、相手の気持ちを思いやって自分を抑えること。
どっちだって正しいし、どっちだってどこかに痛みがある。それなら、とりあえず痛みを抱えるのは俺の胸の役目でいいんじゃないか。とりあえずは…。
マフラーの中でついた溜め息が、すこし首を暖かくした。
「あっ、つばき。」
頭の中に浮かべていた声と同じ響きの声に、驚いて顔を上げた。
「よお、柊子。」
顔を合わせると、自然、顔がほころぶ。でも柊子は少し機嫌が悪そうだ。
「ちぇ〜、つばき来るの早いよ。ぜったい遅刻してくると思ったのに。」
「いや、遅刻して怒られるのは分かるけど、遅刻しなかったことを怒られるなんて、俺初めてなんだけど。」
「だってさ、遅刻を理由につばきになにかおごってもらおうとか考えてたのに、これじゃあ計算違いだよ。」
そんなことを言っておきながら、自分はキッチリ時間通りに来たくせに。
「残念でしたね。」
と、この話題は一笑に付して、俺はゆっくり歩き出した。
うん、この感じでいいんだ。切なさとかは必要ない。そんなものは俺が一人のときに勝手に抱えていればいい。
右斜め後ろには、柊子が笑って歩いている。それで十分だ。


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