『ケセナイキズナ《終編:True》』-5
9 『 』
喫茶店を出て、僕らは暗い夜道を歩いていた。
ここは覚えている。夜道に、あいつらがやってくるはずだ。
ぎゃあぎゃあと、耳障りな音を立てながら目の前から三人の男が駆けて来る。
「玲奈。あいつらが何かしてきたら、絶対に逃げろ。いいな」
「は?」
「いいな?」
「え、うん」
案の定、男どもは僕らとすれ違う瞬間に、僕に拳を振るってきた。
予想していたからだろう。頭は驚くほど冷静に、体は思った通りに動いて、彼らの奇襲を防ぐ。
「行け、玲奈!」
男達の顔が、徐々に赤く染まって行く。
一人は玲奈を追いかけ、二人は僕の前に立ち、挑発的な態度を取った。
「かかってこいよ」
僕が馬鹿にすると、彼らはいきり立って向かってくる。
一つずつ丁寧にかわしていくが、喧嘩の経験が皆無と言っていい僕には、これだけでも体力は消耗される。
「オイ、クチダケカ?」
人間の声には聞こえなかった。
こいつらが、僕の玲奈を汚したんだ。こいつらが……こいつらが!
怒りの沸点を超えた僕の頭は、何も考えずに彼らへと突進する。
「はいはい、そこまで」
すると、透き通るような声が、辺りを支配した。
「君達のボスは、警察の人にお世話になってるよ」
聖先輩だった。
「すぐに、君たちもお世話になるだろうね?」
パトカーの赤いランプが、辺りを照らす。
「なんで……?」
聖先輩に問うと、彼は、人間らしい笑みを浮かべ、こう言った。
「君は、一つ正解したからさ。さぁ、あとは、あの子を救うだけだね。それと、玲奈は無事だよ。今事情聴取を受けてる」
何故、彼がこのようなことをしっているのかなんて、僕にはわからない。
ただ、この人には、返せないほどの恩赦を受けただけだ。