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『ケセナイキズナ』
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『ケセナイキズナ《終編:True》』-3

8 氷柱《つらら》
 氷柱/1 † I right †

 季節はもう12月に入ろうとしていた。僕が退院して二ヶ月も経ったのかなんて信じられなかった。
 記憶のフラッシュバックは時々起こるが、いつの間にか僕は慣れていた。
 ただ……夜寝て、朝起きたときに嫌な汗をかいていることは、多々あった。それがどうしてなのかはわからない。
 きっと夢を見たのだろう。でも、どうしてもその夢を思い出せなかった。
 
「ほら、涼。またぼーっとしてる!」

 玲奈がベッドの上から声を荒げた。

「あぁ、ごめん」

 いつもの日常どおり、彼女は僕の家で勉強を教えてくれていた。
 彼女はすでに就職が決まっており、更には卒業論文も済んでいる。僕はというと浪人したので、彼女よりも一歩遅れての就職活動兼学期末テストに追われていた。

「私もあと三ヶ月くらいしかいれないんだから、しっかりして」

 玲奈の言葉には、悲しみがこもっていた。

「あぁ、そうだね。明日でテストも終わり。そのあとは思いっきりデートしよう」
「うん」

 無理して笑っているのがわかった。
 三ヶ月なんて、きっとあっという間だ。その間に、僕らはどれだけ時を共にできるかが重要だ。

「大丈夫、さ」

 自分に言い聞かせた。
 この季節になってからというもの、不安は増すばかり。
 なんでだろう。彼女がいなくなってしまうような気がする。
 彼女が消えて、なくなりそうに感じる。
 全てを、失ってしまいそうな気がする。
「どうしたの……?」

 玲奈が下から覗き込む。

「大丈夫?」

 胸が締まる。
 呼吸が乱れる。
 嗚咽が漏れそうになった。
 絶望が具現しそうだった。
 叫んで狂いたくなる。
 彼女を抱きしめて、いっそのこと一つになりたかった。
 彼女のことを、離したくなかった。

「玲奈……」

 玲奈を抱きしめ、ベッドに倒れこむ。

「ちょっと……まだ勉強が終わってないよ!」
「もう、いいんだ」

 彼女と、一時でも離れたくなかった。少しでも繋がっていたかった。

「馬鹿……」

 玲奈を抱きしめいてると、そう、それはあっさりと、けれど、何もかもを壊すように。
 僕の中で、ただ一つの真実を芽生えさせた。


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