『ケセナイキズナ《終編:True》』-1
7 抹消《まっしょう》
玲奈と再び付き合い始めた。
光輝には散々茶化された上に、何故か食事をおごらされもした。
まぁ、彼にもそれなりにも迷惑をかけたからかな。なんて、自分で思った。
だが、今はそんな遊んでいる余裕なんて無かった。僕は浪人しているということで、年齢的には不利だ。
しかも、記憶を失う前は成績が良くなかった。そのせいか、ゼミの配属も思ったようにいかなかった。
些細なことで腹が立っても仕方ないが、今までの自分の怠慢が招いた結果だと思うと、昔に戻って自分を殴りたくなる。
「ほら、休んでないで手を動かしなよ」
ベッドに座りながら教科書を手に取った玲奈が、少しだけ怒るように言う。
「わかってるんだけど……なんで玲奈はプログラムまでできるんだ?」
「昔のあなたに教わったの。自分は理解していないのに、なんでか教えるのが得意だったから不思議」
それは確かに不思議だな。何故理解していないものを、彼は教えることができるんだ。この世では理解できないことが多いな。
「あ……涼、雪が降ってるよ」
玲奈が窓を見て言った。窓を見ると、ちらほらと粉雪が舞っていた。
「少し外に出ようか。気分転換したい」
「でもおじさんとかおばさんが起きない?」
「この時間なら起こそうとしても起きないよ」
時間は深夜の二時。基本的に我が家は、女性が泊まることは禁止しているのだが、玲奈は両家ご公認ということになっているので、良いらしい。
ちなみに、彼女は今一人暮らしをしていて、一人だと不安だから、というのも理由の一つだ。
「そっか」
玲奈はちょっとだけ微笑み、コートを羽織る。
玲奈の手を引き、外に出る。粉雪は止まず、薄っすらと地面を白く化粧する。
玲奈が両の手を広げ、空を仰いだ。それを見て僕も空を見る。
「雪は、地球からの贈り物。それは孤独だったり、愛情だったり、死だったりする」
「誰の言葉だい? 玲奈」
「あなたの言葉。雪の降る日に一人だと物悲しい気持ちになるでしょう? 二人で雪を見ると、愛しく思えるでしょう? 寒さのせいで恐竜は死滅したでしょう?」
「昔の僕はロマンチックだ」
「うん、全くだね」
雪は常に八角形の形をしている。どうしてそうなるかを昔学んだように感じるが、今は全く思い出せない。これはきっと記憶喪失のせいではないだろう。