『ケセナイキズナ《中編:Crazy World》』-7
―――応聖/Eteranal
「ちょっと……涼! 涼ってば!」
玲奈が後ろから僕を呼ぶ。
「待って、待てぇ!」
彼女は急に命令口調になる。それに驚いて足が止まった。
「もう……急にどうしたのさ?」
「あの人は……嫌いだ」
玲奈が息を切らしている。
「そういうところは変わらないんだね」
「えっ?」
「昔から涼は先輩をあまり好きじゃないの」
「そう、なのか?」
「そうなの」
彼女は息を切らしながら、公園のベンチを指差す。おそらく、あそこに座ろうという合図だろう。
「少しだけ、昔話してあげる」
ベンチに座ると、彼女は大きく深呼吸して、僕と玲奈の、過ぎ去った……往昔の話を。
それを聞いてると、頭の中を何かが通り抜ける。
消える人。紅い水溜り。徐々に冷たくなる体。殻の中の自分。微笑む人。犯される人。侵される自分。消え逝く何か。夢を見る人。黒い殻。首元を伝う冷たい何か。
「あぁ……」
失いたくない。彼女を、世界を、自分を。
なんでこんなにも胸を締め付けるんだ。
何が、僕をここに存在させる。
僕は……なんだ?
「涼……?」
玲奈を見る。
「大丈夫?」
何かが逆流してくる。
未来が逆流する。
世界が流転する。
希薄すぎる、彼女。
「玲奈……?」
「なに……?」
彼女の声に、不安があった。
すると、僕は彼女を抱きしめていた。
虚ろな彼女を、ここに繋ぎ止めるために。
「行かないで……どこにも……」
「大丈夫、私はどこに行かないよ」
「置いてかないで、僕だけを」
「私はいつもあなたといるよ」
「アイシテイルカラ」
そう……僕は彼女を愛しているのだから。
中篇:了