DOLLHOUSE〜虚ろな姫君〜-2
「胸もない、毛も生えてないようなガキ、どうしろってんだよ」
「青田買いってヤツかな。あの女、「処女」でふっかけてきやがった。まあ、あの様子とこの歳では間違いないだろうけどな。10歳だそうだ」
「青田買いって、ちょっと過ぎやしねえか?」
「若い娘を気前よく手放す親はそうはいないからな。女の成長過程をみるのも楽しいだろう。飽きたら飽きたでそれもいい。ちょっとした大学入学祝いだからな」
おじさんは笑いながら、あの重苦しい扉から外に出ていった。
おじさんの言葉を繋いで考えるに。
私は売られたらしい。チョコレートは私を攫うための口実で。
一緒に住んでいたおじさんが私の口にアレをつっこんだことで、『元も子もない』がどうとか言ったのは処女を高く売るためで。
私もあんな生活をしていたから「処女」がなにかおぼろに分かっていた。
「こい!」
男は私を軽々と小脇に抱えた。が。すぐに投げ捨てるようにおろした。
「くせえ。」
そうかもしれない。自分ではわからないけど。
学校でもよく言われてた。
もう何日もお風呂に入ってない。(勝手にお湯を入れたり、タオル使うと怒られるから)
それに、着替える服もなかった。
「おい!ユリ!コイツを風呂に入れて部屋に連れてこいっ」
「…はい…かしこまりました」
メイドさんはユリというらしい。
ユリさんは私の手を引いて風呂場に連れて行った。
「ごめんね、こんな小さな子に」
そういって泣いていた。私なんかのために泣いてくれている。
…オマエの母親はロクデナシだ。ロクデナシの子供はやっぱりロクデナシだな。
…汚ねえな、触んなよ!
優しい言葉をかけてくれる人なんかいなかった。学校の先生ですら。
「ユリさん、泣かないで。私へいき」
平気な筈はなかった。でも、そういうしかなかった。
キレイな服をきてお屋敷にいても、ユリさんが幸せそうには見えなかった。
きっと、このユリさんも逆らえない何かでここへ流れてきたのだろう。
私みたいに。
丸い白い大きな浴槽。その中の水はうすいピンク色でとてもいい香りだ。
ユリさんは、自分のスカートを絞り結んで袖をまくった。やさしく丹念に私の身体を洗ってくれ、湯上がりにとても可愛いドレスを着せてくれた。
ピンクのレースでふわふわの。今まで着たこともないキレイでやわらかな生地でできてる。
髪も結い上げてくれてドレスと同じ色のリボンを付けてくれた。
ユリさんはドアの前で
「ゆるして。私もあの人には逆らえない…」
といって抱きしめた。ユリさんは泣いてばかりだ。
「私へいき」
私は自分に言い聞かせるように言った。
これからどうなるのか、おぼろげに分かっていた。
いや、わかっているつもりでわかっていなかった、というのが正しい。