春告鳥 2-5
「あのね」
美里さんが僕を見つめて言った。
「初めに、知られて一番つらいことを自棄になってぶちまけて。でも圭さんは全部受け入れてくれたから。つい、考えないで物を言ってしまいました。だけど、きっと、嫌なことも我慢しないでいられそう」
彼女が微笑む。
「それでいいよ。そうでいて…」
僕に心を開いてくれている。
「じゃあ、これは嫌なことじゃない?」
僕は腰を引いてから、ゆっくり突き上げた。
「あぅん… 嬉しいの」
彼女は甘い吐息をこぼしながら、柔らかな表情で笑った。
「ごめんね。どうしても比べちゃうの。その…抱きしめる体格が違うな…とか」
今度は彼女は言葉を選んだ。そんなのいいのに。
似たような経験を比べてしまうのはどうしようもない。
それは僕も同じだ。敏感で反応のよい彼女の身体。僕自身がさっき思い出してしまったこと。
ふ。
僕は息を吐くように笑った。
「気にしないで。猥談も対応しますよ」
目元にキス。彼女は瞬きして微笑む。
「違うの。圭さんが良いの。…そうじゃなくて」
彼女は赤い顔をしてそうと、言葉を続けた。
「今考えると、私、ずっと振り回されていたから、圭さんは優しいな、とか。なにもかも圭さんの方が良いの。もっと早く圭さんに会えていたらなって…そしたら、私、もう少しキレイなまま圭さんにあげられたのにね…
」
こんな風に傷ついてしまうより前に彼女に会っていたら。
考えても詮無いこと。
たぶんこのタイミングでなければ、僕らはすれ違ったままだったと思う。
だからいい。
「何度でも言いますよ。美里さんはとても綺麗です。どのオンナノコより」
僕はわざと比べるような言い方をした。
彼女だけが卑屈になる必要はない。
「経験豊富そうですね」
彼女がくすくすと笑う。特に嫌味は感じない。
彼女が笑うと腹が動くみたいで、僕を締め付ける。ああ、いい。
「そうでもないですよ。歳の割には。色恋に疎くて臆病なんです。どうしてもね。性分なんでしょうね。…大したことはないですけど。知りたいですか?」
僕はどうしても慎重になってしまう。
それは未婚のまま僕を生んだ母のことは関係ない。僕は僕だ。そう思い込もうとしてもダメだった。
先のことまで考えてしまって恋愛自体に億劫になってしまう。
今までつき合ったオンナノコは3人。
32年でコレならかなり少ないと思う。もしかしたら、美里さんよりも少ないかもしれない。
最初の人とは長くつき合っていたし、数を誇るつもりはない。