春告鳥 1-3
ときどき見かける北野さんはシロを構っている姿が可愛い。
丸顔で目がくりっと大きくて。
シロに夢中で僕が2階に立っていることには気づかないらしい。
まあ、いいんですけど。
でも、ちょっとお近づきになりたい気がするなあ。
ゴミ出しすれ違いのあいさつだけじゃなくて。
「はい、おつかれー」
店を閉めて姉が言った。
「おつかれさまです。お先に」
西野君がそういって奥に引いた。
「おつかれー」
姉貴が西野君に声を掛ける。
西野君はここをBarにした時から働いてもらっている。
結構無茶振りになってしまうことが多いけど、うまく対応してくれる。
彼が辞めたらと思うとゾッとする。
僕は今日、ひどく滅入っていた。
今日、北野さんが彼氏に連れられて店にきたのだ。
「姉貴。ちょっと呑んでいい?」
姉貴に聞いてみる。一応店の仕切は姉貴だ。
「めずらしいわね。いいわよ、でも呑みすぎないでね」
僕はスコッチの瓶をつかんだ。
氷をいれたタンブラーに半分ほど注ぐ。
姉貴が僕の隣に座る。
「原因はあの子、ね?あんたのこと知ってるみたいだった」
「同じアパートの住人だから。バレないと思ったんだけどね」
彼氏がいたって全然不思議じゃなかったけど。でもあの男はないよ。
来るたびに連れてくる女の子が違う。
それも、短いスパンで。
「あーあ、畜生。結構くるなあ。まいった」
「私もそれ、ちょっとちょうだい」
「ロック?」
「ん。」
僕はタンブラーに氷を落した。
「どのぐらい?止めてくれよ?」
「あんたじゃないんだから。一本でいいわよ」
シングルのタンブラーを姉貴の方に滑らせた。
「で。そういう態度にでちゃうってことは。本気だったの?」
「意外なことに」
「意外?なにそれ?」
姉貴が聞き返す。ま。ごもっともな反応だな。
「自覚がなかったんだよ。可愛いなとは思ってたんだけど、こんなに入れ込んでるなんて。今日思い知ったっていうか、相手を見てさらに苛立ったっていうか」
「人が持ってるもん見て欲しくなった的な?」
う。的確でキツイな。
僕はスコッチに口をつけた。