春告鳥 1-4
「…それも否定できないとこがまたイタいんだよ」
「なんて後手…。それで、そんだけ凹むの?あきれた。ばか」
二人、氷をならしてグラスを傾ける。
しばらくの沈黙の後、姉貴が口を開いた。
「あんた盗れ。落とせ。誑せ。彼女、どうせあんな小男といたっていいことないもん。まだアンタのが絶対マシ」
…マシってなんですか。
全然フォローになってません。
「全部承知で割り切ってるコなら好きにすればいいわ。でも。あのコは違うわよ?…いつか泣くわ」
「それはー。女のカン?」
「違うわよ。彼女の持ってる雰囲気よ。素直で、嘘がつけなくて、少し不器用で、よく笑って。…だから可愛いんでしょうが?」
さすが、よく見てる。
伊達にこの商売、長いわけじゃないってことか。
「あのコ、冗談や飾りで男とつき合いそうにはみえないもん。まず、好きだって意思表示しなさい。あんな男に遠慮する必要ないわ。そんなに好きなら、手段なんか選ばないで、そのナリで誑しこみなさいよ。そのカッコでつかまえられないオンナノコはそうはいないんだから。…ホント、ばかね」
こうも露骨にスケコマシを奨励するとは思わなかった。
どういう風の吹き回しか知らないけど。
からかわれているようなニュアンスを姉貴から感じなかった。
「誑し込む云々は別として、そうするつもり」
「そう」
姉貴が氷だけになったタンブラーをおいて立った。
「もういいの?」
「だから、あんたじゃないっての。帰る。あとよろしくね」
「あいよ」
閉店後の収支と明日の仕切りは姉貴の分担。片付けと掃除は僕の分担。
一通り終わったら仮眠とって帰るだけだ。
「ねえ、どうなった?」
ここんとこ閉店後の姉貴は野次馬になる。
洗い物をしている僕の横でいろいろ訊いてくる。
「…ほっとけ」
「今日は『会ってない』じゃないわけね。フラれたか」
会う機会がなかったからそう言っていたが、今日会って話をした。
どうして、この人は構ってくるんだろうな。全く。
僕は口を尖らせて顛末を簡潔に言った。
「『ごめんなさい』だってさ」
「あら、残念。とりあえずは仕方ないか。」
さほど、残念そうには聞こえないな。
「もっとショックなことに、僕と姉貴がつき合ってると思ってたみたいだよ」
「はあー?」
さすがに姉貴も驚いた顔をしている。
そうだよなあ。ひどいよ。
店での雰囲気を見て彼女はそう勘違いしていた。
まあ、姉貴と仲が良い方とは思うけど、姉弟としてはって話。
そりゃないよってなわけで。