魔法使いの告白 7-1
「すみません、こんな所へ。2人きりで話がしたかったので」
坂井さんはそういいながら2人分のコートをハンガーに掛けた。
私は促されるままに、プロジェクターの前に置かれたソファーに座った。
「下心がないと言えば嘘になるんですが、このままお帰りになってもかまいません。」
坂井さんははにかむように笑って言った。
バックに流した髪。涼しげな目元。それでもいつもの笑顔だと感じて安心する。
ネクタイの結び目に手をやり緩める仕草に少しドキリとする。
「いえ。私こそ押し掛けた上に、取り乱してしまって。」
坂井さんは、冷蔵庫から烏龍茶とビールを出し、烏龍茶を私の前に置いた。
かしゅ。
ビールのプルを開けながら、少し間隔を空けて私の隣に坂井さんが座った。
「今日は北野さん、呑まれない方が良いようですから」
「私…」
言い出したものの何を言っていいのか、全然わからなくて。
長い間言葉を詰まらせたまま。
それでも、坂井さんはじっと待っていた。
二人、なにも映さないプロジェクターの画面に向かって。対面でないのが救われる。
「…ゴメンなさい。混乱しています。」
「いえ」
私は目の前に置かれた烏龍茶のプルを開けて一口飲んだ。
「私…病院に行ってアフターピル、もらって飲みました」
「え…」
坂井さんの視線がこちらを向いた。
その意味は分かったみたいだった。
ゆっくり落していく視線が私の手元で止まった。
「…その腕…見せてください」
孝文につかまれた手首は跡がアザになって残っている。
袖口からほんの少し見えなくもないが、長袖だし夜だから、わからないと思っていた。さすが鋭い。
私は、右手の袖をまくってみせた。
「すごいでしょう…もう4日も前なのに、まだこんなにハッキリと」
掴んだ指の跡がくっきりとスジになっていた。
「これで、病院でもあまり、アレコレきかれないで薬出してもらえました。薬、結構きつくて1日起きられなくて。でも、もうすっかりぬけたみたい」
私は、あはは、と声を出して笑った。
「笑い事じゃないでしょう!」
坂井さんは立ち上がり、私の右腕をとると袖をさらに肘が出るぐらいまで上げた。
「そっちも!」
大声で言われて、私はびっくりして、左腕もまくってみせた。