魔法使いの告白 6-4
2時すぎに、坂井さんがやってきた。
黒のロングコート姿で、坂井さんのスラリとした風貌は目立った。
「すみません。おまたせしました」
コーヒーを頼んで、コートを脱ぐ。
コートの下も黒服。
ひどく格好がよくて気圧される。
「店は良いんですか?」
「ええ、まあ。2時すぎると一段落しますから、西野君にまかせて」
たぶん、一緒に働いている男の人のことだろう。
「僕、悪目立ちしていますね。今、まともな格好って、店で着てるヤツしかなくて」
「いえ」
「どうかされましたか?」
優しい言葉をかけられて、ぐらつく。
ぽろり。と涙がこぼれてしまう。
泣きたくなんかないのに。
「ごめんなさい。私。 すみません。」
私はバッグからハンカチを取りだして目に当てた。
周りの人がこちらを見ている気がする。
これじゃあ坂井さんが悪いように見えてしまう。
「おまたせしました」
ウェイトレスが坂井さんの前にコーヒーをおいて立ち去る。
「ほんと、ごめんなさい」
「いいんですよ。 …きいていいですか?」
坂井さんは穏やかに笑って言葉を継いだ。
「彼にふられました?」
私がこくりと頷くと
「了解しました。もうなにも言わないで」
といった。
本当はふられた、というのは少し違う。
ふられもしなかった。彼は結末さえつけてくれなかった。
だからコッチから幕引きをした。でも、こちらがフッたとは言い難い状態で。
坂井さんはどうしてこんなに優しくしてくれるの?
「出ましょう」
坂井さんはオーダーをもってレジに向かった。
手を引かれて歩く。
坂井さんの手は温かく、軽く握った力が心地よい。
でも、坂井さんが入った先はホテルだった。
少し落胆して。少しホッとしていた。
私にはこの場所がお似合いなのかな。
恋人でもない男と引かれるままに部屋に入る女。最低だ。
今更純情ぶるつもりもなかったが、坂井さんも『男』なんだと思った。