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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの誤算-8

「なぁ、光輝」
博也はもう縋る事しか出来ない俺を見下ろして、冷ややかに口を開いた。
「どんなに想っても手に入らない苦しさ、光輝には分かる?想いが伝わらなくて、イライラして…挙げ句の果てに、相手を傷付けて後悔してる俺の気持ちが、光輝には分かる?」
「………」
「分かる訳、無いよね?俺がどんな手を使ってでも欲しいと願うもの…最初から持っている人間に、分かる訳が無い」
強気な言葉とは裏腹に、博也の表情は苦しそうに歪められている。

「ごめん、光輝」
まるで、無理やり絞り出したかの様な声だった。
「でも…いまさら、退くに退けないんだ」
俺を見下ろすその顔は、未だ歪められたままでいる。
これが、博也の一番の本音なのだろうか。
その言葉は、あまりにも苦しくて切なげで…退けないのは俺も同じなのに、何故だか、ひどくやるせない気分だ。


Sクラスに水沢の怒声が久々に響き渡ったのは、その日の放課後の事だった。
「ちょっと瀬沼っ!アンタ、聖に何を言ったのよ?」
そのあまりの剣幕に、教室内は水を打ったように静まり返っている。

「放っておいてくれよ、水沢。今はお前と話したい気分じゃねぇから」
来るだろうなという予感はしていたものの、どうも気分が乗らない。
「話したくなくても、話してくれないと困るわよ。瀬沼も聖も、どうしちゃったって言うの?二人とも、なんか変」
「だからって、水沢には関係ないだろ?」
「関係あるから、こうやって訊いてるの。あ゛ー、もぉっ!ちょっと来なさいっ!」
水沢は髪をかきむしった後、強引に俺を教室の外へと引っ張り出した。
嫌だとは思いつつも、抵抗する気にすらなれず…結局俺は、水沢に従う。


「んもーっ、どこ行っちゃったのよ?」
水沢はキョロキョロしながら、学校のあちこちを右へ左へと歩き回る。
「おい、水沢。どこに連れて行く気なんだよ?」
「どこにって、聖の所に決まってるじゃない」
(はぁ?聖の所、だって?)
「何考えてんだよ。余計なお世話だ」
「余計なお世話?何とでも言えば良いわ。大体、瀬沼はねぇ……」
そう言って水沢が振り向いたのとほぼ同時に、博也と聖のものらしき声が辺りに響いた。

「宮木さんに光輝は合わない。あんなヤツ好きでいたって、いつまでも報われないよ?」
「で、でも…」
「どうして光輝なの?どうして他の男を見ようとしないの?宮木さんはいつだって、光輝のことばっかりだ」
(何だよ、コレ…聖っ!?)
ただならぬ雰囲気の博也の声音に、俺はとっさに声がする教室のドアへ駆け寄ろうとした。
だが、伸ばした手がドアを捉える前に、水沢が俺の前に立ちはだかる。悲痛な表情をして、目一杯に腕を広げて。


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