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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの誤算-7

「放してよっ!」
足早に場所を移動する俺に腕を引かれながら、聖は絶えず訴え続けている。
その声には、少し前から、疲れとも怒りとも取れる微かな震えが混じっていた。
「ちょっと、光輝君っ!」
校舎の端にある人気のない廊下に、聖の声だけが大きく響く。
(ここなら誰にも邪魔されないだろ)

「放してってばっ!」
ここに来るまで何度も聞かされた言葉に、俺は足を止めて振り返った。
「嫌だね」
「なによ?訳わかんない…」
「それは俺のセリフ。こないだ、博也と何が有ったんだ?」
言った途端、聖の瞳が微かに揺れた。みるみるうちに涙が溜まり、今にもそこからこぼれ落ちそうになっている。

だが、次の瞬間、聖はあの日と同じ様に俺をキツく睨みつけた。
そしてやはり、同じ様に声を荒げる。
「光輝君には関係無いって言ったじゃないっ!もういい加減、放してよっ!」
「放したら聖は逃げるだろ?博也と何が有ったのか…素直に教えれば、今すぐにでもこの手を放してやる」
早口でまくし立てる聖につられて、俺の言葉も自然と早くなる。
「何よ、勝手ばっかり言わないでっ!本当に光輝君には関係無いんだから、これ以上私に干渉しないでよっ!」
「断るっ!」
干渉しているつもりは微塵も無いくせに、気が焦ってしまって、言葉を選ぶ事すらせずに答えていた。

そんな俺に更に追い討ちをかける様に、聖は今日一番の大声で叫ぶ。
「何の権限が有ってそんなこと言うの?10年も離れてたっていうのに…光輝君は私の何を知ってるっていうのよっ!?何も知らないくせに、もう私を振り回さないでっ!」
耳がキーンと痛むのと同時に、聖を掴まえていた手はそこから離れて、重力に逆らうことなく垂れ下がった。
(今…なんて、言ったんだ?)
聞いたばかりの言葉をどう受け取ったら良いか分からず、戸惑いだけが広がって行く。

解放された聖はもう何も言わず、そのまま俺に背を向けた。そして、静かに俺の前から去って行く。
その後ろ姿に向かって手を伸ばせば、まだ届くかもしれないのに…どうしても力が入らない。
聖の心が、遠い。

聖にとって、俺はただの邪魔な存在だったのだろうか。
10年間抱え続けた想いは同じだと、そう感じていたのは間違いだったのだろうか。
沢山の疑問が、次々と浮かんでは消えて行く。

「バカだな、俺…」
小さくなっていく背中を見つめながら、乾いた笑いと共にそんな言葉がこぼれ落ちた。
俺はなんてたちが悪いのだろう。
戸惑いの中でも結局は、あの言葉が聖の本心ではない事を一番に信じている。
博也のせいだと、心の奥底ではまだ確信を持っている。


「博也、聖に何を言ったんだよ?」
素直に教えるとも思えないが、そのままの足で、俺は博也を呼び出した。
八つ当たりにも似た感情を抑えられない俺に対して、博也はいつもと変わらない様子で平然としている。

「何の話?てか、宮木さん、風邪治ったんだ?」
「とぼけんじゃねぇよっ!」
絶対に何かを知っているハズなのに、わざとボケてみせる博也に腹が立つ。
「お前のせいとしか考えらんねぇんだよっ!聖に何を言ったんだっ!?」
「さぁ?」
「頼むから…教えてくれよ……」
俺は、未だにしれっとしている博也にもたれて頭を下げた。
聖から涙の理由を聞き出せない今、頼みの綱はもう博也だけだ。それなのに、どうしたら教えてくれるのか皆目見当がつかない。
ここに来て、ただただ焦りと恐怖心だけが募ってしまう。
せっかく会えたというのに、このままだと聖が俺からどんどん離れて行ってしまいそうで……


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