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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの誤算-9

「瀬沼、ダメっ!」
「どけよ、水沢」
「嫌っ!邪魔なんかさせない」
「なんでだよ、水沢。どけよ、そこをどけっ!」
「嫌よ、絶対に嫌っ!だって、松田には…ここでちゃんとフラれて貰わないと、困るんだからっ!」
(え?水沢、まさか…)
その一言に、ハッとした。
教室に入ろうと身を動かす俺を必死に止めながら、水沢は切なげに瞳を揺らす。
そして俺の手を強く掴むと、反対方向へと歩き出した。まるで、この場から一刻も早く立ち去りたいとでも言わんばかりに、足早に。

教室内からは、まだ博也の声が聞こえて来ている。
苦しみを吐露する痛々しい言葉と共に、『宮木さんのことが好きなんだ』という切ない声が……


「なんで私の言うこと、聞いてくれたの?」
場所を移動して適当に空いてる教室に入った途端、水沢は顔を隠すようにうずくまった。
その声は弱々しく、いつもの様な力強さは全く感じられない。
「さぁ、なんでだろうな?」
水沢の気持ちがなんとなく分かったから…そう言ったら、水沢は何て言うだろうか。
本当は、水沢を突き飛ばしてでも二人の間に割って入りたかった。
だが、あの時の水沢があまりにも必死で、切なげで…その本心に気付いてしまってからは、手を振り払うことすら出来なくなった。

ずっと、水沢が俺に必要以上に絡むのは、聖の為だと思っていた。聖を溺愛しているからだと、疑いもしなかった。
だがきっと、それだけじゃない。
その事に、気付いてしまった。

「ありがとう、瀬沼」
「何が?」
「ふふっ、さぁ?」
無理やり顔を上げて、水沢は軽く笑ってみせた。泣き笑いみたいなその表情が、ひどく痛々しい。
(素直じゃない、な……まぁ、俺もか)
フッと笑った俺を見て、水沢はもう一度『ありがとう』と言った。そしてまた顔を伏せ、今度は静かな嗚咽を漏らし始める。

水沢は今まで、どんな想いで聖のそばに居たのだろう。
どんな想いで、聖に笑いかける博也を見ていたのだろう。
その切ない想いを、胸の内を…考え出したらキリがない。


「あぁ、やっと見つけた」
廊下の方からそう声が聞こえたのは、水沢の様子がだいぶ落ち着いてからだった。
開け放たれたままのドアの向こうから、博也が満面の笑みを浮かべてこちらを見ている。

「何だよ?今、お前と話したい気分じゃねぇんだけど」
チラッと水沢の方へ視線を向けると、水沢はうつむいたまま、耐えるかの様に拳をギュッと握っていた。
「まぁまぁ!そんなこと言わないで、聞いておいた方が良いと思うよ?俺は友達として、光輝に良いことを教えてあげに来たんだから」
(良いこと、だと?)
数分前の、聖と博也のやりとりが思い出される。
どう考えても、今のこのタイミングで、博也の口から“俺にとって良いこと”が聞けるとは思えない。
そしてそれは、水沢にとっても同じだろう。

「光輝さぁ、知ってる?」
博也は表情を崩すことなく言葉を続けた。
「宮木 聖という人はさ、どうしようもなく鈍くって…他の人が容易に気付ける様な事でも、ちゃんと言葉で伝えてあげないと分からないんだ」
(なんで今更…そんなことを俺に?)
博也の言わんとしている事が、よく分からない。
「そんなこと、お前に言われなくたって分かってる」
「ふぅん…じゃあさ、これは知ってる?こないだの雨の日、俺、宮木さんにこう言ったんだ。『水沢と光輝は両想いなんじゃないかな』ってさ」
「「……は?」」
一瞬の沈黙が流れた後、俺の声と今まで黙ったままでいた水沢の声が被った。
「ちょっ、ちょっと松田っ!」
さすがに水沢も驚いたのだろう。涙の跡を隠そうともせず、ひどく慌てた様子で口を挟む。


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