投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

10年越しの約束の最初へ 10年越しの約束 76 10年越しの約束 78 10年越しの約束の最後へ

10年越しの誤算-6

「せ?ぬまっ、おっはよ?さん!」
まだ人がまばらにしか居ない教室に入った途端、背後から伸びてきた腕に首を締められた。
男物のゴツゴツとしたそれは、簡単に解くことも叶わず、俺の首に絡みついたままでいる。
「相変わらず、朝っぱらからシケた顔してんなぁ」
「せ、世田。ぐ、苦し…」
「あ?、悪い悪い」
謝ってはいるものの、世田の口調はやたらと楽しそうだ。しかも、腕の力を弱める気配はまるで無い。

「お詫びに、耳寄りなハ・ナ・シ、教えてやるよ」
(耳寄りな話、だと?)
「さっきさぁ…」
(え?何だって?)
耳元で囁いた後、世田は俺を解放してニタッと笑った。
「まっ、頑張って?!」
手をヒラヒラとさせながら、自分の席へと歩いて行く。
「おっ、おい、世田」
その真偽を確かめたくても、世田はもう、何事も無かったかの様にしれっとしている。
しかも、いつの間にそんな時間が経っていたのか…担任が朝の出欠をとる為に、教室に入って来たところだった。


世田のおかげで、1限目の授業には全く身が入らなかった。
一応は教科書とノートを机の上に広げているものの、授業の内容が右から左へと抜けていく。

『さっきさぁ、聖ちゃん、見かけちゃった!風邪、治ったみたいだね。瀬沼は、こ?んな所にいて良いのかな??』
何故かムカつく世田の物言いはさて置き、それが、俺の為に教えてくれた情報であることは確かだろう。
正直、授業なんか放り投げて、すぐにでも聖の所に行きたい。聖に会いに行きたい。
たった一時間の授業が、今日はやけに長いみたいだ。


ようやく聞こえてきた授業終了のチャイムと共に、俺は教室から飛び出した。
脇目も振らず、猛ダッシュで聖のクラスへと向かう。
(くそっ、なんでこんなに広いんだよ、この学校は)
実際はたいした距離でもないくせに、気が焦っているせいか、やけに遠く感じられてイライラする。
一般クラスなら、他のクラスに行くのもすぐなのに…どこへ行くにも遠い、隔離クラスの定めが恨めしい。

そんな時、運良く前方に見慣れた背中を見つけた。
教室を移動している最中なのか、その手に教科書を抱えている。
「聖、ちょっと待て!」
声を上げるのと同時に、俺はとっさに腕を掴んだ。
腕を引かれてこちらを振り返った聖は、一瞬驚いた様に目を見開いてから表情を曇らせる。
「何よ?急いでるんだけど…」
冷たく言い放ち、聖は俺から視線を外した。
その動作はまるで、迷惑だと言っているみたいだ。掴んだ腕からは、緊張がひしひしと伝わってくる。

「ちょっと話が有る」
「私には無いよ…」
「俺には有るんだよ。悪い、水沢…コイツ、連れてく!」
聖の隣では、水沢がずっとニコニコと微笑んでいた。
視線を送ると、水沢はその表情のまま早く行けと言わんばかりに軽く手を振った。
「オッケー!先生には保健室に行ったとでも言っておくから、ごゆっくりど?ぞ?!」
「ちょ、ちょっと絢音っ!いっ、痛いよ光輝君…放してっ!」
逃げようともがく聖の声は、休み時間特有のざわつく廊下ですら、一際大きく聞こえている。
このままこの場所で話をするには、どう考えても無理がある。
それでなくても、周りの生徒達が皆、ずっと興味津々な眼差しで俺達を見ていたのだから。


10年越しの約束の最初へ 10年越しの約束 76 10年越しの約束 78 10年越しの約束の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前