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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの誤算-5

「光輝君には…関係ないよ」
力無く床に座り込んだまま、聖は弱々しく言葉を発した。その横で、博也が勝ち誇った様に口の端を引き上げる。
嫌な予感がする。ザワザワと、妙な胸騒ぎを覚えた。
「博也、まさかお前…」
(聖に、何かしたのか?)
「人聞き悪いなぁ…自分の胸に手を当てて訊いてみたら?光輝“君”?」
(えっ、俺?)
嘲りを含む博也の声音に、胸騒ぎが一際大きくなる。
「な、にを…聖、博也に何か言われたのか?博也のせいなのか?どうして泣いて……」
状況がよく理解出来ない。
ただ、俺の目を見ようともしない聖の様子が、あまりにも不自然で…何があったのかと、気が気でない。

すると次の瞬間、聖は急にヒステリックなまでに声を荒げた。
「関係ないって、言ってるじゃないっ!ほっといてっ!」
赤いその目で俺を睨むと、そのまま冷たく横を通り過ぎて教室を出て行く。
何が起きたのかさえ、さっぱり分からない。頭が回らない。
全ての瞬間がスローモーションの様に見えていたのに、気付いたら、聖はもうそこには居なかった。
「あっ、宮木さん、ちょっと待って!じゃぁな、コ・ウ・キ“君”!」
そんな俺を後目に、博也は聖の後を追って教室を出て行く。意味ありげに、俺の肩を叩いてから……

(俺のせい、なのか?)
博也の言葉が頭を廻る。
博也のせいである事は、恐らく確かなのに…自分のせいである可能性がどうしても拭えず、ショックとは少し違う何かが胸に重くのしかかる。
苦しくて苦しくて、じわりと痛い。何とも言い難い、嫌な感じだ。
俺は動くことさえ出来ずに、立ち尽くしたまま…いつまでも、雨は止む気配を見せなかった。


あれからどうやって家に帰ったのか、全く覚えていない。
聖の冷たい眼差しと博也の言葉が消えず、しこりとなって胸を圧迫し続けている。

眠れずに夜を過ごした俺は、朝一番で聖のクラスへと向かった。
とにかく聖と話がしたい、涙の理由が知りたい…その、一心で。
けど、そこに聖の姿は無く、代わりに水沢が俺を迎える。

「聖、どうも風邪ひいちゃったみたいなのよねぇ…昔、喘息持ちだったってのに、どうして雨に濡れて帰ろうと思うのかなぁ?」
「え?雨に…濡れ、て?」
昨日の聖の姿が、脳裏に浮かぶ。
ズシンと、胸のしこりが一層重みを増したみたいだ。

「ん?どうしたの、瀬沼?」
水沢がきょとんとしながら首を傾げる。
「……いや、なんでもない」
「それ、“なんでもない”って顔じゃないでしょ?ねぇ、瀬沼…大丈夫?」
「あっ、あぁ」
大丈夫、なんかじゃない。足下がぐらりと、歪んで見えている。
水沢の手前、なんとか平静を装っているが、欺き切れはしないだろう。

「やっぱ…俺のせい、なのかな……」
「え?」
フラフラと、進む先が定まらない足でその場から立ち去る。
「ちょ、ちょっと待ってよ、瀬沼っ!俺のせいって、どういうこと?」
水沢の焦った様な声が追い掛けて来るが、返事をする気力が無い。話したくない。
聖の涙の理由は分からないままなのに、どうしても自分のせいだとしか思えなくて…痛みだけが、否応なしに広がっていった。


それから数日が過ぎても、聖は学校を休んだままだった。
俺の眠れない夜は、まだ続いている。

最近の俺を形容するなら、“憂鬱”という言葉がピッタリだろう。
ピッタリ過ぎて嫌にもなるが、どうしてもそこから抜け出せない。


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