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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの誤算-2

「どうした、聖?浮かない顔して…」
俺は近寄って、聖の頭にそっと触れた。
「普通クラスの校舎、久々に来たよ。やっぱ、こっちは良いな!」
「光輝…君……」
弾かれた様に顔を上げた聖は、思った以上に表情を曇らせている。
「そういえば、博也はどうしたんだ?せっかく邪魔してやろうと思って来たのに……」
逸る気持ちを抑えながら、俺は何食わぬ顔をして聖の言葉を促した。
博也の名前を出した途端、その顔が今にも泣き出しそうな程に歪められる。
この様子だと、博也と何かあったのは間違いなさそうだ。

「ま…つだ…くん…は……」
「ん?」
「わ、たし…悪いこと…訊いちゃって……」
「悪いこと、って?」
「あ、あのね。あのぉ…」
聖は一旦言葉を切って、ためらいがちに目を伏せた。そして、やはりためらいがちに、ゆっくりと口を開く。
「光輝君と、仲悪いの?って…」
(はぁ?……聖、それ本気で言ってんのか?)
あまりにも愕然とし過ぎて、俺は声を失った。
さすがに、今回ばかりは博也に同情せざるを得ないだろう。昨日の今日でこれは、いくらなんでも酷過ぎる。
まさか、ここまで重症だとは思わなかった。人間って…こんなにも鈍感になれるものなのだろうか?

「わ、たし…松田君のこと、ずっと傷つけてたみたい。松田君にね、言われたの。少しは周りを、見たことある?って。なんで松田君がいつも私のそばに居るか、考えたことある?って……」
(博也が、ねぇ?)
博也に同情はする、聖の気持ちもよく分かる、が…どうも面白くない。
「松田君…すごく傷ついた顔、してた。私のせいなの。私が…松田君の気持ち、考えたこと無かったから……」
恐らく、今の聖の頭の中は博也のことでいっぱいなんだろう。目の前にいる俺のことなんか、その瞳に映ってもいない。

「ふぅん…放っとけば?」
無意識の内に、自分でも驚くほど冷たい声が出ていた。
「そんなこと…出来ないよ……」
「なんで?」
「だって…すごく傷付いた顔…してたし……」
相談に乗ってやりたくても、その口から博也のことしか出て来ないのが猛烈に不愉快で堪らない。
正直、博也の話なんかもう聞きたくない。
あまりにもムカムカし過ぎて、気が狂ってしまいそうだ。

「はぁぁ…」
俺はどうにかして苛立つ心を落ち着かせようと、深く深く息を吐いてみた。
自分がこんなにも器の小さい人間だったなんて、今まで気付きもしなかった。
こんな自分自身、あまりにも情けなくて、呆れる。
(ダメだな、俺。嫉妬して、相談にも乗ってやれないだなんて……)
「やっぱりガキだな」
「なによ…こんな時までバカにしなくたって…良いじゃない……」
その声に我に返り、聖の方へ目を向けた。
(う゛っ、しまった)
聖は、さっきまでよりも更に深く沈み込んでいる。どうやら、俺の自嘲の言葉が聞こえていたらしい。


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