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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの誤算-1

「せ?ぬ?ま?くぅぅん!おっ、はっ、よ?んっ!」
背後から、嫌な声が聞こえて来る。
舐める様にまとわりつくその声は、一瞬にして俺に鳥肌を立たせた。

「ちょっとぉ…なんで無視してんのかなぁ?」
振り向くまでもない。てか、これでは振り向く気だって失せるだろう。
どう考えても、この声は水沢の声だ。
朝一番からの、この妙なテンション…なんだか嫌な予感がする。
今日は俺の方にも話があるとはいえ、このまま無視し続けたい。
不気味なのにも程がある。

「いい加減こっち向きなさいよっ!」
無視を続ける俺にいよいよ痺れを切らしたのか、水沢はいきなり後方から、俺の肩をガッと捕まえた。
「瀬沼がそんな態度に出るんだったら…私にだって考えがあるんだからっ!」
そして水沢は、そのまま肩を引っ張って耳元で囁く。
「聞いたわよ?っ、キッス、しちゃったんだって?」
(……はぁぁ?)
「おまっ、なっ、なんで知って…」
俺は慌てて水沢の手を振り払い、身を翻した。
「んふふ、聖を問い詰めたに決まってるじゃない!それにしても瀬沼、いくら聖が可愛くても、理性くらいちゃんと保ってくれないと困っちゃうなぁ」
「う゛っ」
「瀬沼ってば、余裕なフリしてただけで、実は聖にメロメロなんじゃない。うふっ」
水沢のニタニタとした含み笑いが、かつて無い程に心地悪い。
なんだかものすごく悪いことをした様な…そんな気分にさせられる。

俺はなんとかしてこの話題から逃れたくて、コホンと軽く咳払いをした。
「それより水沢、ちょっと話があるんだけど」
「そんなこと言って、話を逸らすつもりね?……まぁ、いいわ。で、なんなの?」
水沢の視線が、みるみるうちに疑いの眼差しへと変わる。
ある意味、その意見は当たっているが…話があるのは、事実だ。

「水沢さぁ、こうやって毎日の様に俺の所に来てるけど…聖の所に行けないのはそのせいでもあるって、知ってる?」
意を決して切り出した途端、水沢は口を大きく開けてフリーズした。
「俺ももっと積極的に動くことに決めたから、もう背中を押してくれなくてもいいよ。水沢だって、暇な訳じゃないだろ?」
水沢の反応に恐怖心を抱きつつも、とりあえずは用件だけを早口で伝える。少しだけ、嫌味も込めて……
だが、予想に反して水沢は、今まで俺に見せたことがない様な笑顔で嬉しそうにふんわりと微笑んだ。

「へぇ、やっと瀬沼もその気になったのね?それなら話が早いわ。この絢音様に、まっかせなさいっ!」
水沢は笑みを崩さず、胸元を誇らしげにポンと叩いた。
(ん?なんか、話が…)
「そうと決まれば、先ずは放課後のアレをどうにかしたいわよね…最近はいつも視聴覚室に居るみたいだから、一緒に松田の邪魔してやりましょっ!」
「いや、そういう意味じゃ…って、聞いてねぇよ」
水沢は目を血走らせて、『首洗って待ってなさいよ、松田っ!』などと豪語している。
すっかり自分の世界に入ってしまった水沢を見ながら、俺は大きくため息を吐いた。


放課後の課外授業が終わってから、俺は教えられた場所へと向かった。
普段あまり来る機会のないその教室は、時間が遅いせいか、シンと静まり返っていて何者の気配も感じられない。

(水沢め…本当にここで合ってんのかよ?)
心の中で毒づきつつも、とりあえずは教室の中を覗いてみる。
すると、広い教室の片隅で小さな姿がひとつ、影を背負って佇んでいた。

(なんだ?何か…あったのか?)
落ち込んでいる様に見えるその姿は、他でもない、聖のものだ。
博也も絶対に一緒だと思っていたのに…博也の姿は、何故だかどこにも見当たらない。
一旦席を外しているにしても、その荷物すら見当たらないのはどうもおかしい。


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