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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの誤算-3

「あっ、いや、そうじゃなくて…」
「じゃぁ…何なのよ……」
「だから…まぁ、気にすんなって!」
「気になるよ…」
「あ?、まぁ、そうだよな…」
(困った、なぁ)
どんな言い訳をしたとしても、俺の抱いている醜い感情の全てを吐露してしまいそうだ。
自業自得とはいえ、出来れば聖には知られたくない。

「俺としては…あんまり、聖に博也の事で悩んで欲しくない」
「………なんで?」
「なんでも!それに、今そんなに悩まなくても、そのうち全部分かるって!まぁ、お子ちゃま聖には今直ぐに理解しろって方が無理だけどなっ!」
俺はなんとかして誤魔化してしまいたくて、聖の頭をグシャグシャに撫でた。
もう突っ込むなと、願いながら……


(あぁ、こんな所を水沢に見られたら、また冷やかされ……ん?)
「そういや、水沢は?」
しばらくして冷静さを取り戻した頭で、ふと思う。
今まで気にもしなかったが、よくよく考えてみれば、あの水沢がこの場に居ないのも少し腑に落ちない。

「あ、絢音なら…今日はもう帰ったんじゃない…かなぁ?」
(帰った?)
「そっか…意外だな」
(邪魔をしてやるって、あんなに意気込んでいたのに…どうしたんだ?)
「……ぇ?」
「いや、こっちの話!」
(まぁ、気にするまでもないか)
どうせあの水沢の事だから、博也が居なければ、邪魔する必要も無いということなのだろう。
敢えて今、その理由を考える必要はなさそうだ。
それに、この場に水沢が居たら色々とうるさいだろうから、俺にとっては居ない方が有り難い。

俺はまた、聖の髪に手を伸ばした。
聖はまだ表情を曇らせたままでいる。
どんな事よりも、先ずは聖を元気付けることが最優先だ。

だが、この時の俺は気付けなかった。
聖の…この暗い表情の、もう一つの意味に……


次の日は、まるで昨日の聖の表情が伝染してしまったかの様に、どうも朝から雲行きが怪しかった。
放課後が近付くにつれて、窓の外はどんよりと曇り始め…いよいよ雨が降り出しそうになっている。
課外授業が終わって数分と経っていない教室には、もう俺しか残っていない。
皆、雨が降り出す前に急いで帰ったのだろうか。

「あっ、瀬沼じゃない。ちょうど良かった、ちょっと訊きたいことが有るのよね」
机の上に散乱したプリント類を片付けていると、例の如く水沢が顔をのぞかせた。
今日もこれから聖の所に行こうと思っていた俺にとっては、なんともタイミングが悪い遭遇だ。
だが、だからといって蔑ろにするのも、後が怖いからやめておく。

「訊きたいこと?」
「そうなの。瀬沼さぁ…昨日、聖と何かあった?なんか、朝から様子がおかしいのよね」
「ん?……あぁ、たぶんそれ、博也のせいだろ」
「え?」
俺の言葉に、水沢が一瞬、動揺したかの様に瞳を揺らす。
(何だ?今の表情…)
意外な反応に戸惑いつつも、俺は気付かないフリをして言葉を続けた。


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