魔法使いの告白 2-3
「いや、コイツ、初心者だから、こっちで少し遊んでください」
「かしこまりました。ブラックジャックでよろしいですか」
「ええ」
孝文が答えると、男は目を細めて微笑んだ。
…あれ?
奥から蝶ネクタイをつけた男がグラスを置いていく。
「ディタ・オレンジでございます」
三日月型のオレンジがグラスに添えられていた。
孝文にもジントニックが渡されて。
私たちはグラスを合わせた。
少し口をつける。
「美味しい」
オレンジなんだけど、なにか。
孝文が私のグラスを取り上げて少し含む。
「うん? なんだろう?知ってる味なんだけどな」
「うん… あ!ライチだ。」
朧なものが形になってスッキリする。
「ライチのリキュールが入っているんですよ」
ディーラーはカードのセットをしながら答える。
そう、ディーラー。お酒がきて思考中断していたことを思い出す。
少し飲んで落ち着いたせいかしら。
…間違いない、と思う。たぶん。
「あの、違ってたらごめんなさい。坂井さん…じゃないですか?」
あまりに印象が違うから初めは分からなかったけど、笑った目元が同じだった。
「…バレましたか。分からないと思ったのですが」
やっぱり。
目を細めて笑うと、きりっとした顔立ちも幾分穏やかになる。
「はい、すごくヤバイ人かと思いました」
私はようやく緊張がほどけて、笑えた。
なるほど。こういうお仕事だったのか。朝は眠そうな筈だ。
「知り合い?」
孝文が驚いたように見る。
「ええ、まあ。ご近所さん」
「へえ…」
孝文はグラスに口をつけた。
「はじめましょうか。べット、どうぞ」
坂井さんが手のひらを見せて促した。