魔法使いの告白 2-4
私は1枚、孝文が2枚べット。
坂井さんは、私や孝文の手を暗算し、次のカードになにが出ると良くて悪いのかスラスラと説明してくれる。
淀みなく。考え込んでいる風もなく。
すごい。坂井さんてすごく頭がキレる。
数学の苦手だった私には単純な計算といえども、これは無理。
私はバスト(カードの数字が21をこえた。)坂井さんもバスト。で、孝文の勝ちだった。
私のチップはそのまま返され、孝文の賭けたチップは4枚になった。
「と、まあ、こんな感じの遊びです。ルールというか方式というか、いろいろありまして店にもよりますね」
「ふうん…」
孝文はジントニックに口をつけた。
「ママ、これでアレちょうだい」
そんな声が聞こえて振り返ると、ルーレットで遊んでいた人が積み上げたチップを、差し出していた。
「それ。それね、お菓子の入ってるヤツ」
「はい」
チャイナドレス姿の女性はチップを受け取ると艶やかな笑みを浮かべて男に菓子を差し出した。
「ちゃんと、帰りなさいね。お店のオネエチャンじゃなくてシホちゃんにあげるのよ」
常連さんらしい。
『シホちゃん』は奥さんだろうか。それとも子供さんかな。きっとどっちかね。
男はえへへ、と笑いながら、ドアから出ていった。
そんな会話をききながら、なんだかホッとする。
それから、ママはこちらにやってきた。
ぽんぽん、と、坂井さんの肩をたたくと、彼は肩を落してその女性の方へ頭を傾けた。
赤いくちびるが触れそうなほど耳に近づき、なにか言うと、坂井さんがうなずく。
うわ、なんだか絵になる。美男美女だ。
「申し訳ありませんが、ちょっと失礼します。みかサン、よろしくお願いします」
坂井さんは、一礼してテーブルから離れ、ルーレットの方に向かった。
「ごめんなさいね。わたくしでよろしいかしら?」
微笑みながらさっきまで坂井さんが立っていた位置に入る。
「ええ、どうぞ」
孝文も笑って答える。
赤いマニキュアが指先を白く細く強調する。
スタイルも良く、身体のラインをハッキリ浮かばせるチャイナドレスを美しく着こなしていた。
凛として綺麗で、おそらくは年上なのに、丸く大きな瞳が緩むと可愛らしい印象を与える。
開いたカードを束ねながら、
「ブラックジャックで良い?」
と、訊いた。
「…ステキ。みかさんて、すごくかっこいいです」
私は思わず口走っていた。
言ってしまって、しまった、って思ったけど。
みかさんは一瞬、びっくりしたみたいに目を開いたけど嬉しそうに笑った。
「うふ。ありがと。女性に言われるなんて、うれしいわね」
「ええ?なんでです?男から言われる方が嬉しくない?」
孝文が笑いながら身を乗り出して言った。