『ケセナイキズナ《中編:Crazy World》』-6
「記憶は戻らないほうがいいと思うよ。イヤなことも沢山思い出すかもしれないし」
「あなたなんかに、そんなこと言われる筋合いはない」
「そうかもね。でもね、思い出した途端に自殺するかもよ?」
「はぁ? なんで?」
「小説が人生に似ているというよりは、人生のほうがよっぽど小説に似ている、ってことだよ」
「ジョルジュ・サンドの言葉ですか」
「そうだよ。ボクが見た小説でね、そう言った話があった」
不愉快だ……。人の人生を小説と比べるなんて。僕はそういうのが一番嫌いだ。
「君は病気なんだよ、瀬上」
「何のですか……?」
彼の言動、容姿、行動、全てが勘に障る。
「誰も知らない病気さ」
「……ふざけやがって!」
机を思い切り叩き、立ち上がる。
「失礼します」
お金も払わずに出口へと足を向けた。
「すみません、先輩。涼、機嫌悪いみたいで」
「今日はサービスするよ」
「私も、失礼します」
僕が扉を押そうとすると、後ろから透き通るような真っ直ぐな声が聞こえる。
「消せないなんだよ……記憶なんてものはね」
何も……わからないくせに……。