『ケセナイキズナ《中編:Crazy World》』-5
6 応聖《おうせい》/Cafe of Shine
玲奈は少しだけ古めかしい喫茶店へと僕を連れてきた。
看板には、『かがやき』と書かれている。
「私と涼の待ち合わせは、大体ここだったの」
扉を開くと、からんと鈴が鳴る。それが店内に響くと、店員がゆったりとした足取りで僕たちを出迎える。
「お久しぶりです。いつもの席でよろしいですか?」
まるで芸術のような美しい顔立ちの店員がそう言った。
「お久しぶりです、先輩」
玲奈が友人にするような挨拶で彼に言う。
「久しぶりだね、玲奈。記憶を無くした瀬上も久しぶり」
相変わらず芸術のような顔で彼は言う。
「さぁ、座りなよ。幸い君たち以外お客もいないし、ボクも一緒にいただくし」
「本当ですか? いつも先輩仕事で忙しくて相手にしてくれないから、嬉しいです」
「ははっ。そう言ってもらえると、とても嬉しいよ」
彼は変わらない笑みで玲奈に言う。
その後、僕たちは、いつもの席というものに案内された。しばらくして、『先輩』という人が僕と玲奈の紅茶、そして自分の紅茶と、軽い食事を持ってきた。
「いや、ほんとに久しぶりだね後輩諸君。あぁ、瀬上。記憶をなくす前の君はボクのことを、『聖《ひじり》』先輩と呼んでいたよ」
待て。どういうことだ。いくら彼がここの店員だからと言って……いや先輩だからって、どうして僕が記憶を失っているのを知っているんだ。
「あれ……私、先輩に話しましたっけ?」
「いいや。玲奈は言ってないよ」
彼はあっさりと答える。
「じゃあ……どうして知ってるんですか?」
喰い付くように彼に聞く。すると、彼はそれをもあっさりと答える。
「驚いたかい? 案外君は有名人ということさ」
「誰から聞いたんですか?」
「あはは。神の思し召しだよ」
「冗談を言わないでください!」
気付けば大声になっていた。
芸術品のような彼が、とても勘に障る。こちらの意図など、全て透かし見ているようで……まるで僕は彼の手のひらで踊らされているようだ。
「……すまない。友人から聞いたんだよ。出所はボクもわからないんだ」
先輩は、すまなそうな顔を作り、謝罪する。
「あ。いえ、僕のほうこそすみません」
少しの沈黙。
「そうだ。君に言いたいことがあったんだよ、瀬上」
「なん……ですか?」
サンドイッチを頬張って言う。