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『ケセナイキズナ』
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『ケセナイキズナ《中編:Crazy World》』-3

5 身識《みしき》

 そのまま彼女は僕の部屋に居座り、何も話そうとはしなかった。その空気が、なんとなく重く感じ、僕はなんとかこの沈黙を破ろうと彼女に話しかける。

「何か話してくれないか?」

 彼女は振り向くと、にかっと笑う。
 一体何を企んでいるんだか、この子は。

「何について話せばいいの?」
「そんなの僕に聞かれてもな」
「そっちから振ったんだからなんか案を出してよ」

 そう、だな。

「じゃあ、君の事を教えてくれ。君の記憶も全く無いんだ」
「うん……わかった」

 哀惜のこもったため息をつくと、彼女は大きく深呼吸する。
 何か覚悟を決めたようで、そしてどこか……そう、どこかでこのような彼女を見た気がする。
 根拠の無い既視感。でも、あまりも現実味がありすぎて、「気のせいだ」と無視できなかった。
 そんな僕の考えなどわかるはずのない彼女は、「うーん……」と少々考えた後に、「では」と話を始めた。
 彼女は大学の四年生。僕よりは学年的に一個上。どうやら僕は浪人したらしい。就職先はもう決まっていて、卒論も終わりが見えてきているので、僕が入院する前はよく遊んでいたらしい。
 どうやら彼女は成績は悪くないらしく、順位は上から数えたほうが圧倒的に早い。成績も『優』が多く、大学の成績優秀者にも選ばれたことがあるとのことだ。

「それが今の話で、ここからは昔の話ね」

 彼女は少し気恥ずかしそうに話を続けた。
 僕と玲奈は同じ高校で、二年の頃に初めて同じクラスになったらしい。だが、部活が同じなのでお互いの顔と名前、性格はそれなりに知っていた。部活の中でも僕とは仲が良く、光輝に度々からかわれていたが、まんざらでもなかったらしい。
 そして、ある大きな大会の日。僕が優勝し、賞状をもらうときに彼女に告白した。賞状をもらったすぐあとに、こちらを振り向き、「玲奈、俺と付き合ってくれ!」と他の人の目など気にもせずに告白した。それに驚いたものの、反射的に玲奈は「はい」と返事をし、僕は優勝と告白成功、二つの意味を込めた拍手を受けた。

「僕の昔の話はしないでほしいんだけど」
「いいじゃない、面白いから」

 それから彼女との交際が始まった。僕は異性と付き合うのは初めてだったらしく、見るからに緊張していたとのこと。そんな僕のことを茶化しつつ、彼女は僕を遊びに誘ったり、一緒に帰ったりしていた。時々光輝が割り込んできて、笑いながら弓道場に向かうことも多かったらしい。
 そんな僕らの交際は長く続き、今までに至るということだ。

「面白かった?」

 玲奈がにやけた表情で言う。

「あぁ、すごい面白かったよ」

 恥ずかしくて顔から火が出るほどにね。しかも彼女のことを聞いたのに、後半はほとんど僕のことだ。

「君の趣味とかは?」
「私の趣味は……手芸に料理に、ゲームにカラオケ……かな。涼が書いていた小説を読むのも好きだったよ」

 そういえば……光輝も言っていたな。彼女が僕の小説を楽しそうに読んでいたって。時間つぶしに探してみるか。


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