『ケセナイキズナ《中編:Crazy World》』-2
「最近防具を新しくしたの」
「勉強を教えるつもりで来たんじゃないのか?」
「見たところ、全然集中できないって顔してるけど?」
彼女は的確に僕の表情を読んで言う。
確かに集中はできていなかったけど……ここまではっきり言われると、不快だ。
僕は煙草に火を点ける。
「ベッドの上で吸ったらダメだって」
玲奈は「もう……」と付け足した。
「君には忘れてくれと言ったはずだけど」
玲奈は一瞬表情を曇らせたが、何故か壁にかかっている鞄に手を突っ込んだ。
「涼はいつもここにお菓子を隠しているのでした」
本当に……この子は悪い意味でいつも僕を裏切ってくれる。
「君は……辛くないのか? 恋人が自分のことを忘れているのに」
ふと、ずっと考えていたことを言う。
「……どうだろう。自分でもわからない。でもね、あなたがここにいて、生きていることが、私にはとても嬉しい。それで辛いとか言ったら、バチが当たると思う」
困ったように彼女は微笑んだ。その顔が、とても……僕の胸を締め付ける。
「ありが……とう」
照れくさくて、少しだけ声は小さくなった。
「もっと大きな声で言ってほしいな」
「五月蝿いよ、ったく」
彼女に背を向け、僕は煙草を深く吸い込んだ。