『ケセナイキズナ《中編:Crazy World》』-1
4 輝異《きい》
世界が流転する。
何もかもを孕み、記憶のみを堕胎しつつ。
その中で僕はうずくまっている。
自分が何者なのかも、気付かないままに。
世界が流転する。
何もかもを破壊し、創造しながら。
その中で僕はただ、その様を眺めている。
世界は『無』で満ちている。
僕は、そこに在る、ただの『無』だ。
―――ピピピ
重い瞼をこじ開け、目覚ましを止めた。
昨日はあれから遅くまで勉強していたせいか、頭は未だに覚醒していない。
時間は十時。僕の大学では、夏休みが終わると同時に、オリエンテーションがある。そして、そのあとすぐに、体育祭があって、それに参加しない生徒は休みとなる。
それを知ってはいたものの、規則正しい生活は必要だと思った。
大きく伸び、首をこきこきと鳴らしながら居間へと向かう。居間に着くと、母親が目を大きく見開きながら、「珍しい、早いわね」と皮肉を漏らした。
まずはおはようとでも言ってほしいものだ。
それから朝食をあてがわれ、それら全てを平らげた。食器を流しへと置き、何も言わずに部屋へと戻った。
まずやることは、勉強だ。
自分の成績表を見直してみても、決して良いとは言えなかったので、ここから巻き返すしかない。工業系の大学なので、プログラムを基本に行い、それと平行して国家試験の勉強も行う。だが、持ち前の集中力は決して高くはないので、度々手が止まった。
―――♪♪♪♪
携帯電話が鳴る。この着信音は普通電話だ。誰からかはわからないが、ディスプレイも特に見ないで電話に出る。
「もしもし?」
「あ、涼? 今涼の家の前にいるんだ。良かった、起きてたんだね」
「……すまない勉強中なんだ」
「あら、じゃあ手伝ってあげるよ」
「君は文系だろう」
大きく溜息をつく。すると窓の向こうで動く人影が目に入った。それは紛れもなく玲奈だった。
僕の部屋は玄関を入ってすぐ左手にある。
そして、窓は大きく、この時期ならばすりガラスまで閉めていない。そのため、家の前でぶらぶらする玲奈がすぐに見えた。
そして彼女は驚くべき行動を取った。
まだ通話中だというのに、インターホンを押し、誰も入れとも言ってないのに、玄関の戸を開け、そのまま僕の部屋へと入ってきた。
「おはよう」「おはよう」
電話をしながらなので、二重に聞こえる。
「全然変わってないね、この部屋」
玲奈はベッドの横にある座椅子に座ると、近くにある漫画を手に取り読み出した。
「入れとは言ってないけど?」
「いいじゃない、別に」
こちらに見向きもせずに、彼女はそう言った。
「あ、そうだ。涼に教えてもらったゲーム、持って来たよ」
今持ったばかりの漫画を元の場所に戻し、彼女は自分の鞄をごそごそと漁り、携帯ゲーム機を取り出した。女の子らしいピンク色だ。
「確かこの辺りに、涼はいつも置いてたよ」
座椅子のすぐ横にある箱の中に手を入れ、彼女と同じ携帯ゲーム機の色違いを取り出した。それを僕に渡す。