『ケセナイキズナ《前編:For Sacred Goddess》』-5
「やっぱり興味を持ったな。あいつは、大樽商科大学に通う四年生で、美人というよりは可愛い感じだ。そんでな、これが一番重要なんだ。意外とな……ボインだ」
「……黙ってくれ」
ただでさえ記憶が無いのに、変な先入観を植え付けないでほしい。
「会ってみろって」
「だったらマトモな話をしてくれないか?」
「そうだな……お前とは高校三年から付き合い始め、お前が書いている小説も楽しみながら読んでいた。いや、あの子はいい子だよ。あとは、成績優秀らしく、本州の銀行に受かったらしいぜ」
まともな話もできるじゃないか。最初からこう言った話をしてくれればいいのにな。
彼女の話を聞いていると、彼のことが気になり始め、なんとなく聞いてみた。
「君は何をしている人なんだ?」
信号が青になる。
「おいおい、職務質問でしょうか?」
にやにやとむかつく笑みを浮かべ、彼は言う。
「別に。聞いてみただけだよ」
そう言うと、光輝はつまらなそうに「そうかよ」と言った。
「俺はホストやってんだよ。結構売れっ子なんだぜ。月収百万なんて当たり前」
「そうかい」
「つまんねーな、おい。やっぱり玲奈に会うべきだな」
「うん……」
特に何も考えずに生返事する。
「お……よっしゃ行くか?」
今度は返事をしないで景色を見る。景色は秋へと変わっていた。それは物悲しく、どことなく既視感に見舞われたが、大学に三年も通っていれば、このような景色も何回も見るだろうと勝手に納得した。
「はいはい、無視ですか」
それから会話らしい会話もなく、車は黙々と進んでいった。