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『ケセナイキズナ』
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『ケセナイキズナ《前編:For Sacred Goddess》』-4

2 支壊《しかい》



 学校内では、僕は有名人扱いだった。

 久々に会う友人であろう人々は、僕に度々話しかけ、その度に自分の記憶障害に関して説明するのが面倒くさかった。



 そんな大学の講義が終わり、ようやっと開放された僕はそそくさとバス停へと向かった。

 バスの時間を確認し、煙草を吸おうとポケットに手を入れたときだった。バス停の前に停まっている黒塗りの高そうな車がクラクションを鳴らす。

 車はゆっくりと進み、僕の前に着くとぴたっと止まった。



「よう、涼。元気そうじゃないか」

 

 左ハンドルの車の窓が開き、そこから見えるホストのような男が言う。

 僕は大きくため息をついて、自分の現状を採算説明した。



「へぇ、本当なんだ。まぁいいや。とりあえず乗れよ。家まで送ってやる」



 僕は応えず首を横に振るが、彼は見えてないかのように、にこにこと笑って僕が乗るのを待っている。

 再び大きくため息をついて、僕は後部座席に座ろうとしたが、彼は「お前はこっちだろ」と言いながら、助手席のシートをばんばん叩いた。

 この人とは、友好な関係を築けないな、と僕は思った。



「そうだ。お前記憶無いんだよな? 俺は『宮代 光輝《みやしろ みつてる》』。お前とは小中高と一緒で、一緒に馬鹿やった仲だ。光輝って、お前は呼んでた」

「そうかい」

「反応薄いな、おい。もっと、こう……感動してほしいもんだね」



 車が赤信号で停止する。

 光輝は煙草を取り出し火を点けた。それを見た僕もまた煙草を取り出し火を点ける。



「なぁ、玲奈《れいな》のことも、忘れちまったのか?」

「誰だい、それ?」

「お前の彼女だった女だよ」

「そうか……その子はどんなだい?」



 一応聞いておかないと駄目だろうな。


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