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ふたまわり
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ふたまわり-4

「おい、あの荷物見てみろよ。どこで買い付けたんだ?」
「おう、そのことよ。田舎もんばっかしじゃねぇか。」
「今は動けねぇからよ、店閉めたら行ってみるか?」

「確か、こっちから来たょなあ。」
「あ、ありゃなんだ?なに、こそこそ話してるんだ?」
「うん?矢印の看板を持ってるぜ。他には何も書いてねえ。」
店を閉めてから押し寄せた男達が、ぞろぞろと列を作った。そして富士商会の店先にうず高く積み上げられた商品を目にして、大騒ぎとなった。
「おい、おい。なんだょ、こりゃ。どっからこんなに持ち出して来たんだよ。盗品かあ?構うことねぇや、盗品だろうと何だろうと知ったことか。買うぜ、買うぜ!」
「大丈夫、大丈夫だよ!今日無くなっても、明日また入るよ!明後日も、入るょお!」
武蔵の勝ち誇った声が、響き渡った。

どこから品物を調達してきたのか、大量の物資を抱え持つ富士商会は、瞬く間に一大勢力となった。テキ屋達が列を作り、その物資を血眼になって求めた。汲めども尽きない井戸水の如くに、物資が提供された。勿論、日本軍の隠匿物資の一部であることは確かなのだが、それだけではなかった。

進駐軍に対し、軍の隠匿物資の事実を暴露したのである。そしてその橋渡し役は、五平であった。進駐軍の通訳であるトーマス・カトウ軍曹は、幸運なことに五平の遠い親戚筋に当たった。祖父方の一人が、戦前にアメリカに渡っていたのだ。祖父の墓参りに来ていたトーマス軍曹に、偶然に出会ったのが幸運の始まりだった。
更に、五平の女衒という生業が幸いした。トーマス軍曹は、進駐軍の高官達のオンリーと称された現地妻探しを極秘に命令されていた。それを五平が請け負ったのだ。その見返りとして、進駐軍からの物資調達に道が開かれた。更には、本国に戻る米兵の土産物を一手に販売する権利を得た。

「オンリー募集!」と、公然とは出来ない。やむなく
「メイドさん募集!」と名打った。
五平の元には、若い女性が引きも切らなかった。しかし難点の一つに、会話がある。日常の英会話に、通訳を使うわけにはいかない。ラジオで放送された「英語会話」が人気を博したが、一朝一夕で為るものでもない。必然、高学歴の女性を選ぶことになった。
メイドの仕事は家事全般にわたり、楽な仕事ではない。しかし給金は良かった。いや、給金よりも現物支給が望めることが大きかった。砂糖・バター・チョコレート等々、簡単に手に入る。

高学歴の女性は、プライドが高い。高官達のおメガネにかない、運良く橋渡しが出来たとしても、又別の問題が起きてくる。相性と言う厄介な問題が、時として発生する。三日と持たず、追い出されてしまう女性も居た。
又逆にメイドとして応募したものの、実態がオンリーだと知って、逃げ出す女性も居た。街娼婦で済ませる高官も居るが、大半は嫌がる。体面のこともあるが、何よりも性病という問題がある。
しかし女性達は、そこまで踏み込めない。トラブル処理に走り回る方が、物資調達の交渉よりもはるかに難しい。が、さすがに元女衒の五平だ。どう説得するのか、逃げ出した女性を連れ戻してくる。

「五平よ。どう、口説いてくるんだ?後学の為に、教えてくれ。」
「タケさん、いゃ社長。何も特別のことはありません。話を聞いてやるだけです。でね、一緒に泣くんです。真剣に、泣くんです。嘘泣きじゃ、だめです。女ってのは、鋭いですよ。女衒を生業にしていたお陰で、女心というものが、他の人よりは分かりますからね。それにね、あたしは社長のように二枚目じゃありませんから。女もね、腹の内を話し易いんですなあ。一通り話を聞いてやって、泣き疲れた頃に言うんですよ。『親孝行しなくっちゃな!』と。これで、大抵の女は戻ります。中には居ますがね、通じない女も。そんな女には、『一年、辛抱しな!大金が残るぜ。』と、言ってやるんですよ。」
「おい、おい。それで良いのかい?」
「そんなもの、良いんですよ。一年も続けりゃ、もう後はずるずるですよ。贅沢に慣れた女は、元に戻れません。へへ・・」
「そりゃぁ、そうだろうな。」
「しかしね、社長。最近、アメリカさんのご希望が変わってきましたょ。『言葉が通じなくてもいいから、グラマラスな女にしろ!』ってね。どうしたって、今の日本でグラマーな女というのは、少ないですからねぇ。待ってるだけじやなく、打って出ようかと思うんですが。」
「と言うと?」
「でね、社長の出番なんですょ。どうもねぇ。このあたしじゃ、声をかけても逃げられそうで。お願いしますょ、社長。社長と一緒なら、女も話に乗ってくる筈ですから。」


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