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ふたまわり
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ふたまわり-5

五平は、社長である武蔵を立てる。仕入れに関しては、武蔵は不要である。取引は、全て五平が段取りを付けている。しかし、販売となるとそうはいかない。海千山千の、ブローカー相手である。中には、暴力団まがいの者もいる。とてものことに、さばけるものじゃない。騙されたり、脅し取られたりするのが関の山だ。
武蔵は、五平が居なくては物資の調達がうまく行かない。これ程の量は、望むべくもない。二人三脚でなくては、成り立たない。といって、欲得だけの繋がりではない二人だ。親兄弟以上の、強い絆で結ばれている。そして又最も重要な事は、五平が武蔵にぞっこん惚れ込んでいることだった。更に親分肌の武蔵を慕うのは、一人五平だけではなく他の社員達もであった。

「いいかっ!俺一人だけ、良い思いをしようとは思わん!儲けの三割は、俺が貰う。五平にも、三割だ。残りの四割は、お前達に分配してやる。平等に、だ。死に物狂いで働け。儲かれば儲かるほど、お前達の実入りも良くなる。但し、サボる奴は、即辞めさせる。」
夜が明けると同時に仕事に入り、どっぷりと暮れるまで動き回る。男性社員は全員、会社に寝泊りした。自宅に帰るのは、月に一度か二度ほどだった。女子事務員だけは、社長である武蔵が送迎した。送迎と言っても、実のところは武蔵の愛人である。しかし、こと仕事に関しては、愛人と言えども容赦はなかった。他の社員同様、少しでも手を抜けば烈火の如くに怒った。

設立から一年が経ち、一つの儀式が続けられている。毎月末になると、机の上にうず高く札束を積み上げてみせた。そして、仕入れ用の金員を金庫に仕舞い込む。残った札束を、それぞれに振り分けた。
「みんな、良く頑張った。今月は、いつにも増して儲かったぞ。それぞれ壱千円の大台に乗ったな、ご苦労さんだった。聡子!お前は、今月減給だ。計算間違いを幾度となく、やった。三割減給する。その分を、山田・服部・中山の三人に渡せ。いいな!」
有無を言わせぬ武蔵の言葉に、聡子は唯小さく頷くしかなかった。
「いいか!お前たちも、気を抜くなよ。ミスをしたら、減給だ。勿論、俺にしろ加藤専務にしろ、同じだ。いや、俺達の場合は五割の減給だ。大きいからな、損失が。」

「分かっております、社長。」
そんな武蔵の言葉も、彼ら三人の耳には届いていなかった。目の前に積み上げられた札束に、目を奪われていた。
昨日の雪が嘘のように晴れ上がった日、五平が武蔵に注進した。
「社長。今夜辺り、銀座でもぶらつきませんか。ほら、先日お話しました件ですょ。そろそろ、催促が入りそうなんですが。」

「うん?・・。あぁ、あのことか。五平ょ、今夜じゃないとだめか?少し先に・・そうだな、来週じゃだめか?どうも最近、疲れやすいんだょ。あのやぶ医者がな、『少し休息をとりなさいょ』ってな・・。だから、今夜は休肝日にしようかと、思ってるんだが。」

武蔵の弱気な言に、五平は驚いた。どれ程の危機に陥っても、“なにくそ!”と立ち向かった、武蔵の言とは思えなかった。
“余程のことだな。今、武さんに倒れられる訳には、いかんぞ。”
新橋闇市から抜け出して、日本橋に店を構えてから三ヶ月ほどだ。社員も今では十人を数える迄に、膨れ上がっている。これから、という時だ。


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