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ふたまわり
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ふたまわり-3

「あたしらはねぇ、半端者です。額に汗して働くことができない、クズ共の集まりです。ですがね、堅気さんたちをね、理不尽なことからお守りするためにゃ、命を賭けます。筋の通らないことは、決して許しません。御手洗さんでしたな、ご商売に精をお出しなさい。事あるときにゃ、命を張ってお守りしますょ。」
柔和な表情の中でも、眼光の鋭さは消えない。
「ありがとうございます、何よりのお言葉です。それでは店が立ち上がりましたら、改めて伺わせていただきます。本日は貴重な時間をいただきまして、まことにありがとうございました。」
「ありがとうございました。」

帰りの道々、五平が
「武さんよぉ。また、行くのかい?少しお足を包んで、一回で済ませたほうが良かったんじゃないかい?どうも、あの手の人間は苦手でねぇ。女衒の頃に、何度となく煮え湯を飲まされてるんだょ。」と、武蔵に言う。
「俺もそれは考えた。だがな、五平ょ。俺たちのぶつは、そんじょそこらじゃ手に入らないものだ。殆んど市中に出回ってないものばかりだろうが。当然狙ってくる奴が、出てくるょ。そんな時にだ、顔役の後ろ盾があるとなりゃ、おいそれとは手を出してこない。」
「そりゃそうだが・・。そこまで、我々に肩入れしてくれますかねぇ。」
「ま、金次第だろうなぁ。なぁに、見てろょ。でっかい花輪が届くょ。でっかいのが、な。」
「届きますかねぇ、大きいのが。」
「届くとも。店を開けたら伺う、って言ったんだ。その時にたっぷりとお持ちしますょ、ということだ。それが分からねぇような奴なら、こっちが願い下げだ。」
昭和二十一年春、日用品を主に取り扱う富士商会が新橋闇市の一角に設立された。武蔵と五平、そして事務員一名に社員が三名の小さな会社であった。

「はいぃ、いらっしゃいませぇぇ!」
「はい、はいぃぃ、品物たっぷりありますょお!」
「いらっしゃいませぇ・・」
大声を張り上げる二人に挟まれて、蚊の鳴くような小声が聞こえる。
「おい、もっと大声で呼び込めょ。お客が来ねぇと、俺たちの給料が出ねぇぞぉ。」
「そうだ、そうだ。お前だけ、無しだぞぉ。」

開店当日、閑古鳥の鳴く状態だった。朝七時に店を開けて、昼どきの今に至るまでに訪れた客は、わずか三人だった。
“素人さん、個人客、お断り!”の看板が、やはりのことに響いた。
「社長!もう、背に腹は代えられねぇ。個人客もオーケーにしましょうや。」
五平が武蔵に泣きを入れた。社員たちも一様に、五平に賛成した。
「いや、だめだ。卸で行くと決めたんだ。まあ待て。夕方には、どっと客が押し寄せるから。」
「ですが、社長ぉぉ・・」

「忘れたのか、五平。資金集めだと個人客に売った時のことを。ちまちまやっても、大した稼ぎにゃならねぇよ。明日も、どーん!と荷が入るんだぞ。」
「ですがねぇ・・・ほんとに、来ますかねぇ。」
「おい、お前ら。昼飯を喰ったらな、この板を持って、辻々に立て。何も言わなくていい。聞かれたら、“本日開店です”って、小声で言え。小声だぞ、いいな。その方がな、効果あるんだょ。内緒話しみたいにな、見えるようにな。」
持たされた板切れには、矢印が書いてあるだけだった。怪訝そうな表情ながらも、社長命令だからと、頷いた。

陽が落ちて、裸電球に灯りが点いた。
「おい!品物を並べろ、箱のままでいいから。もっと、もっとだよ。そろそろ客が来るぞ。度肝を抜いてやれえ!」
「えぇえ?今からですかい?また仕舞い込むことになるん・・・えっ?来たょ、来たよ。ほんとに、来たよ。」
それぞれ三人に先導されて、どっと人が押し寄せてきた。ちらほらと買いに来ていた仲買人たちの、抱えきれないほどの荷を見ていた者たちが、小首を傾げていた。


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