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ふたまわり
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ふたまわり-2

「いいんですょ、タケさん。どうせ、あたしゃ人間じゃぁありませんから。真っ当な人間じゃやれないことを、生業としてきたんですから・・」
「五平のお陰で、飢えを凌いでこれたんだろうが。納得ずくの筈じゃないのかぃ。借金のカタに無理やり、と言うのじゃないだろうに。」
「まっ。そりゃ、そうなんですがね。へへへ・・」
そんな二人の間にいつしか強い連帯感が生まれ、血を分けた兄弟よりも強い絆を持たせた。そしてこの出会いが、終戦後の二人にとってどれ程に重要だったことか。更には、便所掃除当番を長年勤めたことが如何に有益だったことか。

元来、便所における人間というものは身に纏う衣を脱ぎ去りやすい。本音をポロリと吐露したり、いわゆる内緒話をしたりするものだ。案外のことに、機密事項等も漏らしたりし易い場所だった。そして二人の掃除中にも関わらず、普段二人の人間性を否定しているが為に、別段気にとめることもない。そしてそのことが、二人に有益な情報を与え続けた。

敗色濃厚となった事実は、一兵卒たちには伝えられなかった。しかし二人は、下士官達の話から終戦の日が近いことを知った。そして連合軍の沖縄上陸を機に、軍の上層部内に深刻な路線対立が起き始めたことを知った。本土決戦という勇ましい作戦に対し、名誉ある戦争終結を唱える声が日増しに高まっていること。そして、広島・長崎への原爆投下という悲惨な事実が、軍上層部の本土決戦を鈍らせたこと。

そんな折りに、とんでもない事実を知った。噂としては兵士の中で流れていたことだが、隠匿物質の存在を事実として知ったのだ。下士官達の声を潜めた話から、某寺に隠匿されたというのだ。元々は、本土決戦用に用意された武器弾薬そして食料やら日用品等だったのだが、連隊上層部の個々人で分け合おうと話し合いが始められた、と。
「どうだい、五平ょ。俺達二人で掠め取ろうじゃないか。」
「そりゃぁ、いい話だ。しかし難しいでしょう、そりゃぁ。」
「何ぁーに、便所掃除の折に『寺だってことらしい。みんな、狙ってるぞ・・』と、俺達が小声で話せばいいのさ。隠匿場所を、きっと分散するに決まってる。大量の物資は無理でも、少量ずつに分散された物量なら、何とかなるさ。」
「そりゃぁいい作戦だ。すぐにも、やりましょうゃ。」

「お初にお目にかかります。御手洗武蔵、と申します。若輩者ですが、どうぞよろしくお見知りおきください。」
「わ、わたくしは、加藤五平です。」
痩せ型ではあるが眼光鋭い男の前で、二人揃って頭を下げた。
「新橋の端っこに富士商会という屋号で、雑貨卸をやらせていただきたいので。親分さんのご了解をいただきたく、お伺いしたようなわけでして。」
「武さん。おみやげを、親分さんに。」
「あぁ、そうだ。お口に合うかどうかわかりませんが、どうぞお納めください。」
チョコレートやらチューインガムやらの菓子類と、醤油・砂糖・小麦粉等々が、テーブルに積み上げられた。
「いやいや、これはどうも。このご時世に、よくもこれだけのぶつを。喜びますょ、孫が。それに奥も。」
目を丸くしながら、
“この男、若いくせにどこからこれだけの物を。”と、沸々と疑念が湧いてきた。

「決して出所のおかしな物じゃありません。親分さんには包み隠さずお話しますが、どうぞ他へはお洩らしにならぬように。」
驚く五平に対し
「親分さんなら大丈夫、義侠心のお方だから。」と、制した。
「GHQで、ございます。この加藤の親戚筋が、GHQにコネがありまして。ま、いろいろ手を尽くしたわけでして。」
さすがのGHQで、その威光には顔役といえども歯が立たない。


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