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はるかぜ
【その他 恋愛小説】

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にげみず-6

「りつ、りつが春風を拾って来なかったら私は一生独身だったかも知れない。だから、今はりつが大好きよ。ずっと好きだったんだけど妬ましかった。……だから、ね、春風と何があったのか分からないけれど、りつも大好きな人と一緒になれるようにがんばりなさい」

姉の心音が聞こえる。そのリズムと一緒に姉の言葉がスーッと心に入ってきて、私はまた号泣してしまった。
涙が止まると途切れ途切れに話す私の話を姉はずっと聞いていてくれた。

「りつ、今すぐ会いに行きなさい。……このまま春風と二度と会えなくてもいいの?」

最後に姉はそう言った。

遅刻決定だと笑いながらバスに乗る姉を見送ってから足は自然と春風の家に向かっていた。歩いてすぐの春風の家はもう目の前にあってたいした身支度もしていなかったけれど、気づけばもう玄関前にいた。
ただノックが出来なくてじっとドアの前に立っていた。
辺りはすごく静かで、だから、聞こえたんだと思う。

ドアの向こうから悲しげに切なげに歌う声が。
伴奏もギターも音が何も無くてアカペラで歌を歌う暁がドアの向こうにはいた。

ドアに耳を付けてそれに聞き入ってしまった。

Rain Emptyの曲を何曲も聞いた所で背中を叩かれて振り返ると雨水が立っていた。
ものすごく怖い顔をして。
雨水は親指でアパートから離れろと合図をした。
私は雨水に連行された。

雨水が私の先を歩き、その後を追った。
この田舎でスーツを着込んだ雨水はすごく目立つ。
タバコ屋のおばさんが私たちをじっと見ていた。

「雨水……さん。そこ左に曲がってください」

意を決してそう言うと雨水は私を少し睨んでからその言葉に従った。
二人でそこからしばらく歩くと赤い小さな古い鳥居が出てきて、雨水はその前で止まる。
息を切らして追いかけた私も肩で息をしながら立ち止まった。

「その、先、なら、人来ませんから」

雨水に鳥居の先を指差しながら言う。
そこは町にひとつしかない神社ですごく立派で太い御神木が何本も立ち、ちょっとした森のようになっていた。
砂利を敷き詰められた参道を二人で歩く。
ひんやりとした空気が奥に行けば行くほど広がっていて、御社の前は少し広くなっているが誰も居なかった。

立ち止まり辺りを見回している雨水を尻目に私は御社に向かってお参りをした。

「……昨日は怒鳴って悪かった」

一通り見回した雨水が私の姿を見てそう言った。
振り返り首をふると、雨水は私の方へ歩いてきて御社の階段へ座った。隣に座れよと言わんばかりに自分の横を叩く。しょうがなく従い、私も階段へ座った。

「……迎えに来たんですか?」

沈黙がしばらく続いて先に耐えられなくなったのは私だった。
雨水は首を振ってそれを否定した。

「いや、今連れて帰っても無駄だよ」

雨水の顔をじっと見つめて首を傾げた。
頭上の高いところで小鳥が鳴いて、それが響いている。



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