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はるかぜ
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にげみず-5

「久しぶりに手でも繋ごう」

大きくなった姉の手をじっと見つめ私は動けなかった。

「ほら、早く」

姉は戻ってきて私の手を強引に握って引っ張る。
引っ張られた反動で足が一歩出てしまい、そのまま波止場まで来てしまった。

朝の海は活気があって、船がたくさん泊まっている。
二人で立ち止まり、カモメと船と人を見た。

「……母さんがね、昨日、泣いてた」

カモメの声に紛れながら姉の声ははっきり聞こえた。
驚いて姉の顔を見上げる。姉の横顔は朝日を受けていつもより綺麗に見える。

「りつが心配だって。悩みを溜め込んだらまた喘息が酷くなるかもしれないって」

私の手がぎゅっと握り締められる。

「……その時、思ったの。やっぱり私りつを嫌いだったって」

泣きそうだった。姉がそう思って居る事はなんとなく分かって居た時もあったけれど、こんな風に言われるとは思って居なかった。思わず俯いて握られている手を振り払おうとする。

「りつ」

呼ばれて睨み付けるように見上げると姉は私の方を向いていた。その顔は悲しそうに歪んでいる。

「私、りつが嫌いよ。母さんも父さんも小さい頃から、りつ、りつって、りつの事ばかり気に掛けて私がどんなにがんばっても良くやったの一言で片付けられて」

淡々と呟くように語る姉の顔を信じられない思いで見ていた。
姉はいつも何でも出来て母からも信頼されていて姉には何も敵わないと思っていたのに。

「りつの喘息が酷くなって東京からこっちに引っ越してこなくちゃいけなかった時、私、あっちに好きな人がいた。だからその時りつを嫌いなんだって自覚した。りつさえ居なかったらって思った」

姉の言葉が心に重い。でもどうしてそんな事今言うんだろう。気づいたら涙が零れていた。姉の空いた手が私の頬に伸びて綺麗にマニキュアの塗られた指で涙を拭っていった。

「でもね、りつ。私もうすぐ結婚しようと思うの。もう二度と会えないと思ってたのに、その人に再会出来た。……どうしてだと思う?」

首を振った。
分かりっこなかった。初めて聞く話。
私たちはこんな風に話す事もしない姉妹だった。

「春風とねどうしても話をしたくて色んな人と連絡を取ってる内に彼がいたの。私の事覚えてて、その日の内に食事をした。……その人が春風と連絡を取らせてくれたの。言わなくて良いと思って言わなかったけど……、りつが変わったって春風に言ったらすごく動揺して、そのすぐ後に、彼から尋ねて来た」

姉が?春風に会って……?

ここで再会した日の事が思い出された。
姉が来てその後ろに春風が居た。

「りつの話をしたら自分も行くって言うから連れて来たの。まさか無期限の休止なんて言うと思わなかったから」

姉が私をゆっくり抱き締めた。シャネルの甘い香水の匂いがした。



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