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はるかぜ
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にげみず-7

「駄目になるだけだ」

ため息をつく雨水。
雨水の言葉は吹き矢のようだ。
致命傷は与えないのに、刺さると痛い。

「……私のせいですか」

尋ねるわけでもなく、ただ呟いた。
雨水はさあねと呟いた。

「昨日電話を切った後アイツの家に行ったら歌ってたんだよ。それからずっと朝まで歌ってる。だから今連れて帰ってもしょうがない」

雨水は自分の胸に手を当てる。

「歌いたくて歌ってるんじゃないんだ。そうしないと居られないんだ、きっと。……だけどね、アイツにはここがね、ないんだ。今は」

自分の胸にも手を当てる。
心。

「でも歌うしか無かったんだろうな。暁は歌が好きだから」

雨水は手を胸から離し、その辺りにあった小枝を手にして砂利をいじり始める。

「君の家から帰ってきた一年前。暁はね、驚くほど回復してた。失踪する数ヶ月前から酷かったんだ。寝ないでずっと詩を書いてた。さやかの事を想って書いた詩。読んで涙が出るくらい本当に切ない詩だった」

「さやかさんの為の……」

胸が苦しくなる。嫉妬と同情と悲しみと。俯いて小枝を私も拾って砂利に刺した。

「居なくなった日も普通にレコーディングして解散した後だった。夜中にメールが来てただ一言声が出なくなったからしばらく休むって、それだけ。びっくりしてマネージャーに電話したけどマンションはもぬけの殻だった。それで大騒ぎになった」

小枝を拾っては二人で刺し続け小枝が無くなると全部抜いてはまた刺した。

「暁はね君と会って本当に救われたんだろう。詩がころっと変わって、それで曲を出せた」

雨水を見上げる。長い髪が風に揺れていた。

「あれは君を想って書いたんだ。昨日今日ではっきりした」

すごくびっくりして持っていた小枝を落とした。
嬉しくて笑ってしまいそうだった。
でも、私は一度もそれを聞いていない。

「……知らなかった。聞いてもいないし」

その言葉に雨水が私の顔をまじまじと見ていた。

「聞いて、ないのか?」

頷く私に雨水は大笑いし始める。

「もうそこそこメジャーになったと思ってたんだけどなぁ、俺達」

腹筋を痛そうに抱えながらまだ噛み殺しながら笑っている雨水にすいませんと小さく謝った。

「でも」
と、雨水の顔を見上げて言う。

「この一年、春風の顔も声も聞けなかった。捨てられた気がしたから。あの短い期間で初めて人を好きになったんです。相手が誰なのかも知らずに」

「……それだから暁は君が気に入ったんだな。誰なのかも知らない自分を気にかけてふわりと砂糖菓子のように包んでくれたって、そんな風に書いた詩があった」

笑うのを止め、私の顔をじっと見る。



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