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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-9

「ありがと…」
ぺこ、と頭を下げる友夏。
そんな彼女に、逸はぎゅっと眉を寄せる。その表情は切なさそのものである。

ああ、この少女を
今すぐ胸に抱けたなら、
俺は、
俺は他に何もいらないのに――…

「何か手伝う?」
首を傾げて尋ねる友夏の声に、胸の中の想いを奥底深くにしまい込み、逸は苦笑した。
「いいよ、ほらお前は勉強しろ」
むーと膨れつつ、友夏はリビングへ戻っていく。逸はそんな友夏の背を、憂を帯びた瞳でじっと見つめていた。


「ほらゆか。熱いぞ、気ぃつけろ」
暫くしてから逸がマグカップを両手にリビングへやってきた。片方を友夏に渡す。
「ん、ありがと」
シャーペンを置いて受け取る友夏。逸は傍のソファーに座り、机を覗き込む。
「英語?」
コーヒーを啜りながら友夏はこくんと頷く。どれ、とノートを引き寄せる逸。さっと目を通す。
「ん、よくできてんじゃん」
照れたように友夏は笑って逸を見た。
「英語は夏休み頑張ったの、一応。あ、でもね」
ガサガサと鞄を探り、何やら引っ張り出す。
「これ、苦手で」
「化学?」
また一つ頷いて、友夏は困った顔をした。恐る恐る逸を見上げる。
「逸くん…あの、もしよかったらでいいんだけど、分からないところ教えてくれない…?」
「ん。どれ?」
逸はソファーから下り、絨毯に座った。ぱぁ、と顔を輝かせて友夏はノートと問題集を持って逸の横へ擦り寄る。
「あのね、この問題とこっちと…」
ふわり、と薫るリンスの香。逸の心をときめかせた。

愛しい人。
ずっと昔から、
変わらず大切な人。

どうしてこんなに好きなんだろう?
どれだけ愛せばいいのだろう?

これまで幾度となく繰り返した問いを今再び思いながら、逸は傍にいる幸せを感じていた。


「これは分子量が分かってるからモル数も分かるだろ?そしたら後はアボガドロ定数使えば、ほら」
「ほんとだ!わーすごい」
目をキラキラ輝かせて友夏はシャーペンを走らせる。いつの間にか時刻は一時を回っていた。
「ありがと逸くん、全部できちゃった。今度は自力でもう一回解いてみるね」
笑顔を向けてから再度机に向かう友夏に優しい笑みを溢して、逸はキッチンへ向かう。コーヒーのお代わりだ。
コーヒーの熱さにも劣らないほど胸が熱い。逸は無意識に胸の辺りの服を握った。
(ゆかの傍にいるだけでこんななんて、俺おかしいんじゃないのか)
自ら思って苦笑する。でもこれまでにない幸せを感じているのは確かだった。


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