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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-1

夕焼けの光を受け、朱色に染まる雲はゆっくり空を横切っている。秋に似合う空だ、友夏はそう思った。僅かな哀愁が心の隅に宿る。
「ユカ、これ解けた?」
友人の問い掛けにハッと視線を戻す。
「どれ?」

ユカこと朝森友夏は今放課後の教室で自主学習をしているところである。
高校三年=受験生という重荷はいつ何時も背から離れず、彼女を焦らせる。

「あ、これはね、解の公式使うといいんだよ」
「なるほど、了解」
友人が再びペンを走らせ始めた。そうして友夏もまた外へ目をやる。
開け放した窓から入り込むのは緩やかな風と歓声。中間間近だというのに、どこぞの馬鹿が校庭でサッカーをしているらしい。いくらかギャラリーも集まっているらしく、女生徒の黄色い声も聞こえる。

「よくやるよねぇ」

友夏の視線に気が付いたのか、友人も窓へと目を向けている。
「ほんと」
苦笑して友夏が相づちを打った。
「ばっかだなぁ、うちの学年の男子は」
そう言われてじっくり見ると確かに見知った顔が数人混ざっているのに友夏は気付く。数組の連合なのだろう、見たことの無い人物がいるところをみると。

「ナイッシュー!」

突然グラウンドが湧き上がる。チームメイトに笑顔でばしばし叩かれている生徒がゴールを決めたようだ。
その人物を認めて、友夏の表情が微かに曇った。友人はそれに気付くこともなく、彼女へ話し掛ける。
「あ、あれ。ほら叩かれてるの、日下(くさか)くんじゃない?すごいよねー、あんな遊んでても成績トップなんだから」
うん、と力ない友夏の返事。そういえば、と更に友人は続けた。

「ユカと日下くんてイトコなんだっけ?」

さわさわと秋風が友夏の髪を揺らした。遠くで烏が鳴いている。
「……うん――…」
遠い空の彼方を見つめながら、友夏は呟くように言った。

彼、日下逸(いつ)と友夏は友人が言ったように正真正銘のイトコである。姉妹である母親同士が仲が良いこともあって、幼い頃はしょっちゅう遊んだものだ。
でも。「あのこと」があってから友夏と逸の間には溝が生じていた。二人はもう随分会話すらしていない。

「そうだったよね、やっぱ」
友夏の返事を聞き、友人が確認するように言う。
「ユカと日下くん、話すトコ一度も見たことないから忘れてたよ。仲、悪いの?」
ちょっと考えてから友夏は首を振った。
「ううん、そうじゃない。向こうが……日下くんが私のこと嫌いなんだ」
そう告げた友夏は知らず知らずに記憶を辿っていた。


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