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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-8

一体どんな夢を見ているんだ?ゆか。
誰の夢を見ているんだ?

ゆか、お前の好きな奴の夢か?
誰を恋しく、
愛しく想っているのか。

俺じゃ…

ないんだろう?

分かってる。
十分過ぎるほど承知している。
でも、ゆか、
俺じゃ駄目なのか。

俺は恋愛対象にはなれないのか……


込み上げる苦しさを無理矢理飲み込んで逸は歩を進めた。

逸は物心ついた頃からずっと友夏が好きだった。

いつも一緒にいた友夏。
笑うと左にだけえくぼができる友夏。
優しくて可愛い友夏。

幼いながらに、友夏は大切な女の子だと分かっていたのである。自分にとって特別だと。
一緒に居られるだけで満足だった。他の友人も交えて、楽しく笑っていられればそれで良かった。

だが、それは思春期の訪れと共に突然代わる。

友夏の全てが欲しくなった。他の誰にも譲れない、全てを独り占めしたいと。
その想いが爆発したのは、中一の時に偶然、久しぶりに友夏を見た時だったのを逸は今でも覚えている。
初めて見た制服姿の友夏はちょっぴり大人びていて、逸の胸は高鳴った。
けれど、その友夏が逸の知らない男女と楽しそうに話していたのである。考えてみれば当然なことで、誰でもする行為だ。
だけど逸はそう思い止められなかった。悔しくて悔しくて悔しくて……。

彼は初めて『切なさ』を胸に抱いたのである。

それからずっと友夏を想い続けた。会えない苦しさにも傍にいられない苦しさにも耐えながら――…

(あれ?)
階段を下りきった時、逸は不意に気付く。
逸の家の階段は玄関ホールにある。下りるともちろん玄関ホールに着くわけで、そこには祖父の部屋へ続く襖戸と、風呂場へ続く木の扉と、リビングへ続く磨りガラスの扉があるのだが、リビングの中が磨りガラス越しにぼんやり明るいのだ。
(消し忘れか?)
疑問に思いつつも逸は扉を開ける。

「うわ、びっくりした…」

リビングの真ん中にある、小さなテーブルに向かっていた少女がびくついて顔を上げた。驚いたのは逸も同じだった。
「ゆか……何やってんだよ」
えへ、と困ったように笑う友夏。
「一応受験生だからさ。本当は藍さんの机借りてたんだけど、寝てる藍さんの横で電気付けてたら迷惑だろうなって」
「それで電気スタンド持ち込んで?」
逸は言いながら机の上で唯一部屋を照らしているものを叩く。
「うん。本当は携帯の明かりだけでやってたんだけどおじいちゃまが貸してくれたの」
にこっと友夏が笑った。その姿は姉のだとはいえどもパジャマであり、逸の心臓は脈打つ。
「なんだよ、電気点ければいいのに」
落ち着かせるため、逸は電気を点けに動いた。ぱち、と音がして辺りに蛍光灯の光が満ちる。眩しいのか、友夏は開いているのかいないのか分からない、線のような目をして逸を見上げた。
「だって、人様のお宅だもん、節電しないと…」
相変わらず律儀な奴、と逸は目を細めた。
「いいよ、点けてな」
「でも」
「俺もここにいるから」
え?と言う声を背に、彼はキッチンへコーヒーを作りに向かう。本当は赤い頬を見られまいとした行為なのだが。
「俺もここで勉強する。それなら電気点けても後ろめたくないだろ。おい、友夏もコーヒーいるか?」


うん、という返答の後に、ぺたぺたと足音が響いた。それは逸の傍で止まる。


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