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きみおもふ。
【純愛 恋愛小説】

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きみおもふ。-10

「ゆかは?コーヒーお代わり…」
キッチンから戻った逸の目に入ったのは、ごろんと絨毯に転がっている友夏の姿。
「こら、おい、ゆか?」
マグカップを机に置いてから、傍に寄って友夏を揺さ振る。
「ゆーか、ほら、風邪ひくぞ」
「とりゃっ」
覆いかぶさる様にして友夏を揺さ振っていた逸の首に友夏の手が伸びた。と思った瞬間視界がぐるりと回転する。
気が付いた時には、友夏の体は寝そべる逸の上に乗っかる状態になっていた。
参ったかというように友夏が笑う。
「えへへ、びっくりした?子供の時よくこーやってじゃれあったよね。服に草の汁の染みいっぱいつけて叱られたなぁ」
懐かしそうな口調の彼女は気持ち良さそうに逸の胸に頬をつけている。
しかし逸はそれどころではない。壊れてもおかしくないくらい心音が速くなっていた。
「どれだけ前だっけか……もう随分だよね…懐か…しい…なぁ………」
途切れ途切れの言葉。数秒後、それは寝息と変わる。
「ゆか?」
呼んでも返事はない。
「なんだよ、人の上で寝やがって……。お前コーヒー飲んだ意味なくないか?」
仏頂面でぼやく逸。そして突然ふ、と黙る。
少しの間、胸で眠る少女を見つめていた逸は覚悟を決めたようにギュッと目を瞑った。
ゆっくりと回される腕。自らの上にいる、大切な存在を包み込む。
温かな体。少しでも力を入れると壊れてしまいそうで優しく抱き締めた。

「ゆか……」

求め続けた温もり。今は手の内にある。眠ってはいるけれど、今彼女を感じているのは逸だけだった。
少女を胸に抱いたまま起き上がる。逸に身を預けた彼女は相変わらず規則正しい寝息を立てている。
「よっ」
立ち上がり、逸はリビングを出た。こんな所で友夏を寝かせておくわけにはいかない。
階段が二人分の体重を受けて軋んだ音を立てる。数度友夏を抱き直しながら、逸は二階に立った。
(さて)
逸は思う。
(いくら姉キの部屋とはいえ、寝てる女の部屋には入りにくいな…)
暫し考え、彼は姉の部屋を通り過ぎた。そして自分の部屋の戸を開ける。
「ごめんな、ゆか。俺の部屋で我慢してくれよ」
布団を剥ぎ、ゆっくり友夏を横たえる。安心しきった寝顔。思わず笑みが零れる。
布団をかけてやり、優しい眼差しを友夏に向けた。
先程天窓から覗いていた月は西へとずれ、もう姿は見えない。しかし変わらず青白い光が部屋を包んでいる。
膨れ上がる想い。体が引き裂かれそうな程の痛みを訴える心。
耐えてきたのだ、ずっと。彼は耐えてきたのだ。

「ゆか……」

擦れた、消え入りそうな声。逸の苦しさを、これでもかというほど纏っている。
す、と逸が動いた。

ためらいがちに。
そっと口付けを落とす。

唇が触れ合うだけの軽いキス。
ずっと以前から恋い焦がれていた相手。こんな、遊びのようなキスでは満足できるはずがない。

もっと激しく、求め合うようなキスがしたい。
きつく、強く抱き締めたい。
友夏の全てを、『俺』で染めてしまいたいんだ…。

「ゆか…」
もう一度名を呼ぶ。そっと額を撫で、かかっていた髪を払ってやった。

「好きなんだ、ゆか…。ずっとゆかだけなんだ…」

凛と冷たい空気の中を、逸の言葉は静かに響く。届けたい人の耳には入る事無く、寂しげに秋の闇夜へと消えていった。


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