愛を囁くよりも先に…金澤純の秘め事…-3
「三沢っ」
「あ、はい!」
考え込んでいたところを急に声をかけられて、思考が停止した。
「三沢、何してんの。早くカップ片づけちゃいなさい」
社長は俺に笑顔を向けたから、その不安は一瞬だけ消え去った。
だけど、一瞬だけ。
俺は仕事の間中、ずっと社長のことを考えていたのだから。
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「――誘われると思ったわ。坂下に浮気だって怒られちゃうわよ」
「バカ言うなよ。麗は相手が松本なら怒るわけない。
しかも麗に言ったら『梨絵さんと行くなんてずるい』って言われたよ。俺よりお前の方が好きみたいだ」
その日の夜。
金澤は松本を誘い、会社の近くのバーに入った。
「お前これでいいよな。すみません、これ2つ下さい」
金澤はそう言うと、パタンと音を立ててメニューを閉じる。
金澤の顔は、緊張しているようだった。
松本は金澤のポンッと肩を叩く。
「お疲れ様。そんなに純さんのところに1人で行くの、嫌だった?」
「すまん…」
「謝らないでいいわよ。本当に、雪人の優しさって不器用よね…」
ちょうどカクテルが目の前に出されて、松本はグラスを手に取る。
「多分、あの人もそのことは理解したと思う。会う必要もないと思ったけど直接伝えたかった、結婚するって」
金澤も、グラスの中の液体を口に注ぎ込む。
目に涙をためているのに、松本は気づいた。
「…今日おごるからたくさん飲んで。わかってるわよ、純さんは」
松本は息を吸い込んで、こう言う。
「挙式をしないのは、雪人なりの優しさだって。雪人に会わないようにするためってことくらい…わかってると思うわよ」
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――今日のあたしはどうかしてた。
「社長、どうかしましたか?」
「あ…何か言った?」
あたしは社長室の自分のデスクに座って、もう社長印を押し終わった書類をぼーっと眺めていた。
三沢はそれをのぞき込んで、
「仕事終わってるなら帰った方がいいですよ」
とため息をつきながら言った。